流通経済大の変化
(山口陽三筆)

(大学野球選手権敢闘賞・生田目投手。日刊スポーツより)
流通経済大が今年、全国大会(大学野球選手権)で大躍進した。
東京新大学野球連盟の1部リーグ戦を10勝1敗の勝ち点5で完全優勝。
2回戦から入った大学野球選手権は3試合を勝ち上がって決勝進出。
最後は東京六大学代表・早稲田大に敗れはしたが堂々、立派な戦いぶりだったと言えるだろう。
連盟ホームページの掲示板にはそれをたたえる発言が相次いだ。
流通経済大は昭和52年の連盟加盟時から強かったらしく、加盟2年後の昭和54年春季には
リーグ優勝を飾っている。そして衝撃的だったのが昭和61年の大学野球選手権。
おそらくは現在よりはまだまだ「中央球界」と「地方連盟」とに実力差があったであろう
時代に、東京六大学代表の法政大を倒すなど躍進を続け、連盟最高戦績である準優勝を
成し遂げた。これは現在に至るまで破られていない戦績、まあ破るとしたら優勝しかないので、
現在に至るまで東京新大学は「優勝」は果たせていない、ということになる。
その後も流通経済大は強さを保持し、平成3年には秋の方の全国大会(明治神宮大会)で
準優勝も果たしている。連盟内9連覇などの記録もこの時期に達成している。
ところが筆者入学の平成5年ごろからは雲行きが怪しくなり、というか創価大が力をつけ、
かなりのシーズンで創価大に優勝を許すようになった。直接の対戦でも実力ではそんなに
劣らないと見えるのだが勝ち切れず、先勝しても連敗したりなど特に試合運びの面で
創価大に分があり、ほとんど勝ち点を取れなくなった。
トータルの優勝回数も抜かれた。その間、指導者の若返り等もあったが下降線に歯止めが
かかる印象はなく、東京国際大・杏林大ら、さらにあとから出てきたチームにも
抜かれていった印象すらあった。平成27年春季、大学野球選手権準優勝。形式的には
全国で2番目に強いチームという結果を手に入れたものの直前の平成26年秋季は
東京新大学の1部リーグ戦で、Aクラスにすら入らない4位である。
平成26年秋季リーグ戦
日にち | 勝敗 | 責任投手 |
9月13日 | ●流通経済大 1-2 杏林大○ | ●生田目 |
9月14日 | ○流通経済大 2-0 杏林大● | ○出下 |
9月15日 | ●流通経済大 2-3 杏林大○ (延長14回) | ●小原 |
9月20日 | △流通経済大 1-1 創価大△ (延長11回) | 先発:生田目 |
9月21日 | △流通経済大 4-4 創価大△ (9回) | 先発:出下 |
9月22日 | ○流通経済大 10-8 創価大● | ○生田目 |
9月23日 | ●流通経済大 0-9 創価大○ | ●出下 |
9月24日 | ●流通経済大 3-6 創価大○ | ●生田目 |
9月27日 | ●流通経済大 1-5 東京国際大○ | ●小原 |
9月28日 | ●流通経済大 2-11 東京国際大○ | ●生田目 |
10月11日 | ○流通経済大 2X-1 高千穂大● (9回サヨナラ) | ○小原 |
10月12日 | ○流通経済大 8-1 高千穂大● (7回コールド) | ○川崎 |
10月18日 | ○流通経済大 5-0 共栄大● | ○生田目 |
10月19日 | ●流通経済大 0-2 共栄大○ | ●出下 |
10月20日 | ○流通経済大 3-0 共栄大● | ○生田目 |
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平成27年春季リーグ戦
日にち | 勝敗 | 責任投手 |
4月12日 | ○流通経済大 5-1 共栄大● | ○生田目 |
4月15日 | ○流通経済大 4X-3 共栄大● (9回サヨナラ) | ○小原 |
4月18日 | ○流通経済大 10-3 杏林大● | ○生田目 |
4月19日 | ○流通経済大 4-3 杏林大● | ○豊田 |
4月25日 | ○流通経済大 5-3 創価大● | ○生田目 |
4月26日 | ●流通経済大 0-3 創価大○ | ●豊田 |
4月27日 | ○流通経済大 5-3 創価大● | ○生田目 |
5月9日 | ○流通経済大 9-2 東京学芸大● (7回コールド) | ○生田目 |
5月10日 | ○流通経済大 10-1 東京学芸大● (8回コールド) | ○豊田 |
5月16日 | ○流通経済大 5-4 東京国際大● | ○生田目 |
5月17日 | ○流通経済大 4X-3 東京国際大● (9回サヨナラ) | ○岡田 |
平成27年春季大学野球選手権
日にち | 勝敗 | 責任投手 |
6月10日 | ○流通経済大 7-4 城西国際大● | ○生田目 |
6月11日 | ○流通経済大 6-2 東亜大● | ○岡田 |
6月13日 | ○流通経済大 3-0 神奈川大● | ○生田目 |
6月14日 | ●流通経済大 5-8 早稲田大○ | ●生田目 |
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単純には昨秋終了後から今春開幕までの半年ほどの間に、何か大きな変革があったと考えられる。
それではそれがなんだったのか。個人的に興味はあるのだが今年はほとんど流通経済大の
試合を観戦することができておらず、的確なことは書けそうにない。ただしそれでも
思いつくあたりを考えてみたい。
顔ぶれの変化
まず一般的には「4年生の卒業」「1年生の入学」が起きる時期ではある。たしかに昨秋、4年生は
わりとレギュラーメンバーに名を連ねていたから顔ぶれが変わったと言えば変わった。
ただし現在のレギュラーメンバーの大半は昨秋もおり(1年生で入っているのは5番打者の橋川亮介(鳴門高校出身)くらい)、
昨秋だって年功序列で4年生が出ていたわけでもないだろう。昨秋にはまだ主力となれていなかった
メンバーが半年で伸びたと考える方が自然だ。
レベルの変化
それではその「伸びた」個々であるが、選手のレベルはどうか。1年生で入った橋川は線の細さは
5番打者として少々物足りなさも感じるが、重要な戦力となっている。
笹田仁(3年生、高松商業高校出身)という右の長距離砲が4番にどっかりと座るのも頼もしい。
西武ライオンズ・大崎の弟という大崎健吾(3年生、常総学院高校出身)もハイレベルな打撃技術を見せる。
投手陣ではすっかり「時の人」となったプロ注目の最速155km/h右腕・生田目翼(3年生、水戸工業高校出身)の存在は大きい。
リーグ戦で6勝0敗、大学野球選手権でも2勝を挙げ決勝戦では早稲田大も苦しめた。
ただし生田目という飛び抜けた才能は別として、それ以外は普通の選手という気がするのだ。
普通の選手たちが猛練習を重ねてひと冬超えてたくましくなった。そのストーリーはありがちだし
たぶん今回もはずれてはいないだろう。ただ、悔しい思いをしたシーズンは昨季だけでなく、
それこそチームとしては20年近く、毎シーズンのように悔しいシーズンを送っていた。
それをバネにする機会だったら何シーズンもあった。古豪と言っていい流通経済大である。
現指導者の中道守監督(流通経済大学出身)・石本泰志コーチ(流通経済大学出身)とも数年前にお話しさせていただいたが、
「変わらず厳しく指導しているのだが...(結果はなかなか出ない)」という話はしていた。
戦力の変化
戦力的な変化点として生田目の成長は大きいとして、打線が、個々のレベルという話ではなく
全体のバランスとして得点を取りやすい構成になってきたことは言えそうだ。
事実、今季のリーグ戦で1敗を喫したのは日本代表にも選出される創価大・田中正義(3年生、創価高校出身)に完封された
ものではあるが、それ以外の試合は選手権も含めて「打った」と言ってよい。もう一つの敗戦、
早稲田大との決勝戦でも打つ方は打った。先ほどあげた戦績表を見てもわかるように昨季は2点以内に抑えられた
試合が9試合に上ったものの、今季は大きく改善した。直接ではないが同連盟のライバルチームが今年の
流通経済大打線の強さを称賛していたという話は筆者も聞いている。
またエース・生田目が6試合6勝0敗というのも強さを物語る。
第1戦を生田目が勝利し、第2戦を他の投手で勝利できている。唯一第2戦で敗れた創価大との
カードだけ第3戦にもつれ込み、これを生田目が勝利、つまり生田目は全5カードの第1戦と、
創価大第3戦の計6試合を勝利したわけである(逆に言うと他の試合を勝利する必要がなかった)。
第2戦を勝ってくれる投手陣、また攻撃陣のサポート。全体としての戦力底上げは見逃せない。
打者一人ひとりに飛び抜けた才能は感じないまでも、
全員がしっかりとつなげる、還せる、走れるというしつこい攻撃。その源は、現役時代に小柄ながらも
確実性も長打力も兼ね備えており、2番打者も4番打者も務めた石本コーチの指導のおかげもあるのかもしれない。
ただこれとて石本コーチの就任から5年目を迎えており、今年何かが急に、という話でもない。

数少ない筆者の観戦試合、大学野球選手権での東亜大戦より
左は大学初先発で全国でも1勝を挙げた岡田律(2年生、科学技術高校出身)
右は先制本塁打の2番・本間寛章(3年生、聖光学院高校出身)の生還シーン
脇役たちも着実にレベルを上げて準優勝に貢献した
陣容の変化
陣容上の変化点としては投手コーチが代わっている。ここについては前任の方とも現任の方とも
お話ししたことがなく、よくはわからないが、生田目がこれだけの成長を見せたこととは
無関係ではないかもしれない。そして、試合の中での監督と投手コーチとの采配分担、
コミュニケーション、意志決定がどのようになっているかはわからないが、投手起用について
だいぶ辛抱は見られるようになった。昨年までであれば好投していてもちょっとピンチになると
ベンチはそわそわ。雲行きが怪しくなるとすぐに投手を代え、展開次第では中盤でも
一人一殺くらいじゃないかという継投策に入ったりもしていた(中盤でも勝負どころだから
一人一殺をすべきだという場合もあるが)。各投手の成長があったという前提はあるだろうが、
今季は登板している投手をだいぶ信用しているというか辛抱して続投させるケースが多い気がし、
それが結果的に投手自身の成長にもつながるサイクルが生まれていたのではないか。
リーグ戦登板人数も、昨季までが猫の目のように多くの投手が登板していたのと比べると、減ったように思う。

ピンチにも続投を決める中道監督(50番)
ホームページの変化
成績とは関係なかろうがチームのホームページが大きく変化したことはシーズン前に
どなたかが掲示板で指摘していた。試合結果やスケジュールやメンバー表の掲載はこれまで通りだが、
選手(主にレギュラー選手)へのインタビューの掲載や、日々の活動をマネージャー目線で
発信する、などのことがされ始めた。まあそんなことはやっているチームは古くからやっている
だろうし、チームが強くなることとは関係ないだろう。ただ、インタビューでは
悔しい思いをし続けているけれど何が悪いかを内省して現在はこういう課題を持って取り組んでいる、
といったことを丁寧に各選手に話してもらっており、そういう場を選手が持ったことは
もしかするとよかったのかもしれない。この手の活動はとかく裏方の人間の方が大変で、
立ち上げるのも継続するのもなかなか難しいが、筆者は「マネージャーが輝いている
チームは成績もよいのではないか」という仮説も一応持っている(あまり根拠はないが)。
11歳の小学校6年生だったはずの筆者。毎朝決まったどこかのテレビ局(TBSだった気がする)のニュースを、
朝食の最中に見ていた。画面の中で大学の野球がどうのこうのというニュースが流れ、
赤いユニホームの集団が盛り上がっていた。「大学の野球って、東京六大学のことかな、
でもそれ以外でも野球やっている大学生がいるのかな?」くらいにしか認識がないときだ。
他の年の大学野球のニュースなどまったく覚えていないが、あの赤い集団はなぜか覚えている。
それが昭和61年の流通経済大の躍進(準優勝)だったと筆者が知るのは、平成5年に大学野球界に入ってからである。
平成27年。それ以来29年ぶりの流通経済大の準優勝であった。
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