第2戦の投手

(山口陽三筆)

勝ち点制のリーグ戦を行うリーグが多い大学野球では当たり前のことだが、 あらためて「第2戦の投手」の重要性を感じたシーズンではあった。

平成23年秋の東京新大学野球連盟。この年は春のリーグ戦開幕前に東日本大震災が勃発。 その影響もあってリーグ戦開幕が遅れた。開幕が遅れたことの影響が大きかった とまでは言わないものの、結果的にリーグ戦は東京国際大が加盟以来27年目での 初優勝を飾った。6連覇中だった創価大は開幕カードで東京国際大に喫した2連敗が 最後まで響いた。開幕の連敗以後を全勝で走ったものの、 全チームから勝ち点をあげた東京国際大が優勝した。その東京国際大は初出場となった 大学野球選手権でもベスト4と躍進。プロ野球監督も務めた古葉竹識監督が率いる チームであることも注目を浴び、話題をさらった(本も出た)。 迎えた秋のリーグは新王者・東京国際大に創価大がリベンジをかけて挑む構図。 双方勝ち点4同士で迎えた最終週の直接対決は第1戦を創価大が勝利。 第2戦を筆者は観戦に行った。

両チームは絶対的なエースを持っていた。東京国際大は伊藤和雄(4年生、坂戸西高校出身)。 最速150km/hとまでうわさされる、春の大学野球選手権ベスト4進出の立役者。 プロからのドラフト指名もあるだろうと言われていた(結果的に阪神タイガースから ドラフト4位指名)。対する創価大は小川泰弘(3年生、成章高校出身)。 小柄ながらこちらも直球は速く、そして安定感も抜群。このシーズンは51 1/3イニング連続無失点など、 ほとんど失点することなく完封は5試合(結果的にこのシーズン、防御率0.12をマークし、 シーズン防御率の連盟記録を更新)。両右腕の投げ合いとなった第1戦は 3-1で創価大が勝利していた。

第2戦のマウンドに上がったのは東京国際大が真島健(2年生、浦和学院高校出身)、 創価大が関根裕之(3年生、創価高校出身)。 東京国際大は今季の戦い方の通り。創価大の関根はここまで4カード中第2戦の先発は1カードだけ だったが、左腕・久保亮輔(3年生、三島高校出身)と対戦相手や調子によって併用されているような 形であり、第2戦の先発マウンドに上がっておかしくない投手だ。 双方、妥当な手ではあるが伊藤・小川の投げ合いと比べればベンチの投手に対する不安はあるだろう。 2回表、東京国際大が下位の連打で1死満塁の好機。連打と言っても安打のあとは ヒットエンドラン成功と、送りバントが内野安打となったもので、得意の 足でかき回したものだ。そうは言っても例えば相手投手が小川ならば2回に下位から 1死満塁の好機を作ることも至難だろう。最初のポイントが訪れた。 創価大・岸雅司監督がタイムを取ってマウンドへ。第1戦よりは落ちる投手が先発する 第2戦、ベンチも忙しくなりそうだ。ここは東京国際大にあと1本が出ずに無得点。

3回裏、創価大も下位から2死1,3塁の好機。 3番・辻亮太(2年生、京都外大西高出身)の打球は一塁線へのゴロとなったがこれを一塁手が、 ベースが気になってバウンドが合わなかったか、トンネルとなって創価大に先制点が入った。 続く好機は真島が耐えてここは1点止まり。しかし4回裏、再び創価大に好機。 真島に変化があったとも見えないが創価大打線も2巡目後半にさしかかり、 とらえてきたと見えなくもない。東京国際大の動きは早かった。 中島翼(2年生、関西創価高校出身)のスクイズで創価大1点追加後の1死1,2塁で 2番手に今季登板のない尾田佳寛(3年生、広島工業高校出身)を送った。 結果的にはこの継投が大きく裏目に出て試合が決まった。四球で満塁としたあと 2死は取ったが走者一掃の2塁打が出て大量点となった。四球で危機を広げての長打、最悪の形である。

平成23年10月15日 大田スタジアム 第2戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9
東京国際大 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
創価大 0 0 1 5 0 0 0 0 × 6
  • (国) ●真島、尾田、長島、藤井-沖野
  • (創) ○関根、小川-小山、寺嶋
  • 二塁打:(創) 辻

この一戦は、第2戦の先発投手の大切さ、そしてそれを取り巻くチームとしての 戦い方などにおいて示唆が多い。まず真島・関根ともに悪い投手ではなく、 十分リーグ戦を戦っていける力を持つ投手ではある。事実、関根は今春の 流通経済大戦でリーグとして16年ぶりの無安打無得点試合を達成しているし、 真島は今春の大学野球選手権2回戦、東京情報大戦で勝利を呼ぶ好投を見せている。 ただし伊藤・小川が絶対的であるがためにベンチの信頼がそれより落ちるのはしかたない。 双方とも動きが早く、創価大はたった1度のタイムではあるが2回表に取るに至った。 東京国際大は4回途中で真島を降ろすに至った。わずかな差は関根の方にベンチの 期待に応える力があったことと、ベンチのみならずナインの信頼でも真島を 上回ったかもしれないことである。ポイントは3回裏、先制点につながった 一ゴロのトンネルである。伊藤が投げていてはたして、堅守で鳴らす東京国際大に 単純なエラーが出るか。伊藤以外の投手が投げることに対してチーム全体が 浮足立ったとも見え、どう戦ったらよいか不安定であるようにも見えた。 ベンチおよびナインが安心して戦えるだけの「第2戦の投手」を作ることが、 優勝するためには大事である。


(左が創価大・関根、右が東京国際大・真島。いずれも今春のリーグ戦より)


創価大が1位、東京国際大が2位。両チームが東京新大学野球連盟代表として、 明治神宮野球大会関東地区予選を兼ねる関東大学野球選手権(横浜スタジアム)に出場した。 2位でも出場できるわけであり、そのあたりに東京国際大が、先の試合で無理にエース・伊藤を マウンドに送らなかったことや、この大会で使える投手を見極めるために 尾田をマウンドに送ったことなどが理解できてくる。 そしてこの大会もまた、筆者の感覚を確固たるものにしてくれた。

2位の東京国際大は1回戦から登場。初戦で伊藤が完投して中央学院大に勝利したあと、 真島が先発した2回戦で桐蔭横浜大に完敗。相手が強かったのはもちろんあるだろうが 失策連発での大量失点だったと聞いた。彼らは確かにエリート集団ではないが しっかりとは鍛えられていて失策を連発するようなチームではない。 それが大舞台とは言え、そんな試合になってしまうのは、チーム全体が 浮足立っていたのだと言えてしまうだろう。

2回戦から入った創価大は初戦を小川が完封して勝利。翌日の準決勝戦のマウンドにも 小川が上がった。対する城西国際大も前日に完投勝利したエースが連投でマウンドに 上がり、同じ条件でぶつかるカードとなった。この試合だけを筆者は見ることができた。 前日の小川の出来は知らないが、1番いい状態よりは多少落ちているのか、という かんじもした。ただしつけ入るすきを与えず、この試合もまた完封した。 一方の城西国際大のエースは、申し訳ないがほとんどすごさを感じなかった。 多少、抜けている球もあったようだった。創価大の長打攻勢の前に少しずつ失点し、 エースは5回までで降板。創価大が完勝した。 創価大だけでないが城西国際大も、この大事な一戦を託せるだけの「第2戦の投手」 がいなかったのだろう。この大会を勝ち上がるにはエースと同じだけの力を持つ 「第2戦の投手」、もしくは「連投の第2戦でも同じ力を発揮できるエース」が 必要であると感じさせられた。1回戦から入った東京国際大にしても、仮に2回戦を 伊藤が連投して勝ったとしてもさらに準決勝戦では東海大を相手に戦わなければならず、 いずれにしても2番手以降の投手が必要になってくる。


(連投となった創価大・小川の投球)

余談にはなるが今季だけであれば東京新大学野球連盟から関東大学野球選手権に、 杏林大に出てほしかった。「第1戦の投手」田頭正大(4年生、盈進高校出身)は 伊藤・小川には劣ってしまうがいい投手であり、「第2戦の投手」亀谷拓郎 (2年生、東亜学園高校出身)は、第2戦の投手としてはリーグNo.1だっただろう。 この2枚看板で勝負してみてほしかった。


春の大学野球選手権は東京国際大がベスト4、秋の明治神宮野球大会は創価大がベスト4と、 連盟として一定の結果を出した年であった。話題としても、見せた野球としてもやはり 東京国際大の影響は大きい。プロ野球の監督を務めた人の大学野球監督就任としては 初のケースとなった古葉監督の就任から4年。環境整備・部員増加など、レベルアップは もちろん監督の力だけによるものではなかろうが、その影響力は大きい。 助監督を務める三男・隆明氏、元プロである浅野啓司投手コーチらによる古葉体制、 それは4年でリーグ初優勝、全国ベスト4進出、プロ野球選手輩出、と輝かしい成果を出した。 しかしそれでも、「第2戦の投手」を作るまでに至らなかった。 うがった見方をすれば4年がかりで伊藤という投手を一人作るまでが精一杯だったのかもしれない。 それだけ、「第2戦の投手」は作るのが難しいのだろう。


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