間に合った結実
1度は崩壊した工学院ファミリー、勝負を賭けたラストシーズン

(東京新大学野球連盟2部に所属する東京農工大学を卒業した山口陽三が 同連盟の1ファンとして独自の観点で勝手に語ります)


主な登場人物(工学院大学)


平成11年秋、東京新大学野球連盟2部では、工学院大が8勝2敗で優勝を飾った。 このシーズンは筆者の母校・東京農工大学と8勝2敗で並んだのだが、星が並んだ 場合に適用される得失点差が工学院大の方が5点上回っており、優勝となった (工学院大が+33、農工大が+28)。工学院大は東京理科大学に2敗を喫したものの 優勝争いを展開した農工大に対して2勝、そして2戦ともコールド勝ちを納めて 大幅に得失点差を稼いだのが大きかった。ただ、農工大とは星が並んだとは言っても 筆者の感じた限りでは工学院大の戦力が今季はかなり充実しており、がんばった 後輩たちには申し訳ないが、実力的には工学院大こそ優勝にふさわしいチーム だったと思う。今回はその工学院大が1部最下位校の高千穂商科大に立ち向かった 入れ替え戦をまず振り返り、そして今季の戦績にたどり着いた理由と軌跡を 自分なりに考えてみたい。


平成11年11月6日 東京都立大学グランド 1・2部入れ替え戦第1戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9
工学院大(2部1位) 0 0 0 0 0 1 0 2 0 3
高千穂商科大(1部6位) 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1

筆者は観戦していないのだがスコアをもとに振り返る。

バランスのよい、安定したチーム力で2部を制した工学院大が、エース・岡川の好投で第1戦をものにした。

工学院・岡川、高千穂・小池大治(3年生、国分寺高校出身)と実績のある両投手の先発で始まったこの試合、 先制したのは高千穂。 3回に1死1.2塁からの二ゴロが敵失を誘い、1点。しかしその後の1死1.2塁、そして4回の1死2.3塁を 逃すと、5回まで小池に2安打に抑えられていた工学院が6回に反撃。3安打を集中し、 4番・懸川の適時打で追いついた。そして同点で迎えた8回、工学院は無死1.2塁の好機を 小池の暴投で無死2.3塁と広げる。ここで2番・岡部、3番・塩見が続けて犠飛を上げ、 2点を勝ち越し。投げては岡川が5回以降、完璧に近い投球を披露。9回に先頭打者を 四球で出すものの後続を3人で打ち取り、完投勝利。高千穂打線を3安打、 味方失策による1失点だけに抑える好投で第1戦をものにした。対する高千穂・ 小池も好投したが8回に9番・山口浩司(4年生、工学院大学付属高校出身)の2塁打と 味方失策から迎えた危機に犠飛2本、結局1安打で2点の勝ち越しを許した投球が悔やまれた。

平成11年11月7日 東京水産大学グランド 1・2部入れ替え戦第2戦
1 2 3 4 5 6 7
高千穂商科大(1部6位) 0 6 0 0 0 1 1 8
工学院大(2部1位) 1 0 0 0 0 0 0 1
(7回コールド)

第3戦は1週間後という日程、2人の投手を持つ工学院はともかくエース・小池に 頼らざるを得ない高千穂がどういう投手起用するだろうかと思ったが、先発に2年生の 古屋亮(市川高校出身)を持ってきた。
試合は、初回に工学院が1死3塁からの塩見の適時打で簡単に1点を先制。前日の勢いそのままに この日も工学院が流れをつかむかと思ったが2回に先発の佐藤がつかまる。1死2塁から 木建への2球目に暴投で1死3塁。打線が下位打線ということで1点をやりたくない 気持ちがあったのだろうが木建には結局四球。9番・畑中英幸(2年生、七尾商業高校出身) は初球にスクイズを敢行するもファール。完全にノーマークなのにファールになり、 ここはまだ工学院に運があるかと思ったが佐藤は畑中を追い込みながら死球。 どうも佐藤のコントロールが不安定で危機を広げてしまう。そして満塁から 1番・榎本彰士(1年生、常総学院高校出身)の適時2塁打で逆転。さらに2番・ 前島(1年生、常総学院高校出身)が2点スクイズ。2走の本塁突入に焦った 一塁手・塩見の失策で前島も生かしたあと3番・清水晃憲(3年生、東和大昌平高校出身) の適時3塁打も出て結局この回6点。佐藤は4回も1死満塁の危機を迎える。 ここは無失点には抑えたが、どうも高千穂打線に合う。佐藤の調子がいまいちだとも 思うが、何か研究されていたようなかんじはある。さすが高千穂も、工学院のリーグ戦を 3試合偵察に来たということはある。結局工学院は、打線も古屋をとらえきれず、 大量リードされて攻撃に工夫もなくコールド負け。あまりいいところがなかった。

1勝1敗。第3戦までには1週間の時間があった。筆者も第3戦に向けての展望を考える。 工学院はまちがいなく岡川の先発、高千穂はなんだかんだ小池に託すだろう。 ただ、第2戦の投球を考えると古屋の先発も悪くなさそうだ。どちらにしても 難しい選択にはなるだろう。筆者の心情としてはもちろん工学院の応援、岡川の すべてを賭けたラストピッチに期待したいところだがここでよぎったのは平成7年秋の 入れ替え戦。前に高千穂が1部最下位になったときの入れ替え戦だ。当時と 今回は妙に似た点がある。このときも高千穂は第1戦で相手の杏林大のエース・ 井澤俊介(当時3年生、作新学院高校出身)の力投の前に惜敗したが第2戦で杏林大の 2番手投手を打ち込んでコールド勝利。そして1週間あいた第3戦で井澤の前に苦しみながら 辛勝して1部残留を勝ち取った。今回も、第2戦を取ったことで高千穂側にイヤな 雰囲気はなくなっているだろうし、1部校としての経験やプレッシャーに対する強さを 考えても客観的には高千穂 "やや" 有利。でも個人的には工学院有利を信じたい。 岡川にすべてを賭ける第3戦を迎えた。

平成11年11月14日 創価大学グランド 1・2部入れ替え戦第3戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9
工学院大(2部1位) 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
高千穂商科大(1部6位) 0 0 0 0 0 0 2 0 × 2

注目の高千穂の先発は古屋。エースよりも勝っている方の投手を持ってきた。 平成7年秋の入れ替え戦も、第2戦で勝った志賀健太郎(当時3年生、桐陽高校出身) という投手を1週あいた第3戦にも先発させて2連勝している。唯一4年前を知る 島谷浩二監督(平成7年時4年生、高千穂商科大学出身。おそらく4年次から監督を 務め、現在に至る)、まさに当時と同じ「事例ベース」な結論を出した。

試合は初回、工学院が串田の2塁打、岡部の犠打で1死3塁。打席に塩見を迎えたところで 島谷監督がマウンドに出てくる。入れ替え戦でもわりと打てているし、塩見をいい打者と 認めているかんじだ。そしてここは一塁手・二塁手を後ろに下げて三塁・遊撃を 前進させる守備陣形。左のひっぱりの打者である塩見に対して "1点覚悟" の 守備を敷いたものの塩見が「らしくない」打撃で詰まった遊ゴロ。懸川も投ゴロ で工学院は先制機を逸した。しかし岡川もいい立ち上がり。初回に四球の走者を出しながら 三振併殺で切り抜け、無失点。3回には2死から2.3塁の危機を迎えたものの 2番の前島を空振り三振。外角高め、ストライクかボールかという際どいコースに 球威のある速球、絶妙のナイスピッチだ。そして試合は5回まで膠着。特に 岡川はすばらしく、3回以外は3人で片づけ、奪三振は8を数えた。その岡川を 援護したい工学院打線、5回まで沈黙していたが6回に1死から串田が死球。 2番の岡部はバントの作戦だったようだが古屋がカウント0-3。2-3までもって いったが牽制悪送球で1死3塁としたあと岡部を歩かせて1死1.3塁。古屋は 序盤から簡単にカウント0-3にしたり簡単にストライクを取ったり、いいのか 悪いのかわからない調子ながら四死球0だったが急に一人でバタバタしてきた。 塩見を迎えて島谷監督が出る。エースの小池はブルペンで投球を続ける。 塩見の敬遠、投手交代、もちろん塩見との勝負、いくつか選択肢はある。 ただここは "古屋続投で際どいコースをついて勝負" になったようだ。塩見に 対して低めを丁寧につく。カウント2-2から低めへのボールのスライダーで塩見を 三振に打ち取ったがこの球が暴投となって工学院に待望の先制点。さらに工学院は 懸川が安打でつなぎ2死1.3塁。古屋KOで小池が登板。そしてここはなんとか小池が 後続を断った。

試合がようやく動いた6回表だが、直後の6回裏に高千穂も好機。2死1.3塁として 打席に4番の松浦直太(3年生、太田商業高校出身)を迎えた。筆者個人的には、 4番といっても松浦なら打ち取れるだろうと思っていたが、ここで高千穂は 1走が挟まれるトリックプレー。2-1-3-6、ここで3走・戸田圭祐(2年生、 岐阜商業高校出身)がスタート。遊撃・岡部から捕手・串田に返球。タイミングは アウトのところに戸田が飛び込んできたが串田もボールを離さず無得点。 工学院ベンチから「頭を使え!」「頼りない4番だな!」とヤジが飛び、岡部らは 走者と接触した串田を心配して本塁付近に集まり、ムードは一触即発状態。 そして7回、高千穂は1死2塁から安本圭作(3年生、尾道商業高校出身) が左翼の頭を大きく越える同点適時2塁打。 まずい守備でガンガンやじられていた安本がいいところを見せた。さらに2死3塁 となって打席に木建。今は8番だがシーズンで4番を打った試合もあるという、 なんとなくイヤな打者を迎えたこの場面、初球を打った木建の打球は決していい当たりではなく、 多少詰まってもいたと思うが飛んだところがよかった。しぶとく一二塁間を抜いて 高千穂は逆転を果たした。

1-2のままの8回裏、岡川は2死2塁の危機も無得点で抑え、9回表に。終盤になって 三振は奪えなくなってきたもののここまでがんばって投げてきた岡川、この回の 投球が最後にはなってほしくない。9回表、工学院は先頭の塩見が安打で出塁。 無死1塁で4番の懸川。1点差無死1塁だけを考えればバントの作戦も考えられるが 5番の松原弘明(2年生、鶴見高校出身)、6番の荒木浩基(1年生)が当たっていないし、 7番の出村勝之(3年生、工学院大学付属高校出身)、8番の津島までまわれば 代打を考えなければならないがいい代打も思い当たらない。筆者個人としては 懸川に打たせたかったがサインはバントらしい。しかし初球ストライクを見逃し、 1球ボールのあとはバントをファール。多分懸川の気持ちとベンチの作戦があってないのだろう。 塩見が走者じゃ、走者を動かす作戦は使いづらいな、と思ったところでカウント 2-2からランエンドヒットを敢行。投球はボールで辛うじて塩見が2塁に生きた。 危ないタイミング、危ない作戦だったが状況は無死2塁と好機が広がった。 しかし懸川は結局中飛で走者は2塁釘付け。松原は投ゴロで2死。6番、指名打者の 荒木にまわった。あとになって筆者は、この場面で岡川を打たせたらよかったの ではないかと思ったがここでは思いつかなかった(指名打者の打順には投手が 代わって打席に立つことができる)。ベンチも思いつかなかっただろう。 岡川は投手としてすばらしい選手だが、野球のセンス、もう少し言って運動能力が 高く、たまに打席に立ってもわりといい打撃をしていた。ただ、ここはとにかく 荒木に期待、だったが3球三振で試合終了。終わってみれば工学院打線は4安打。 4年間のすべてを賭けたようなすばらしい投球を展開した岡川を援護できなかった。 非常にいい試合、緊迫した好ゲーム、工学院は1部の老舗校・高千穂に対して互角の いい戦いをしたが惜しくも1部昇格はならなかった。


すでに筆者はあちこちで書いているが、工学院は平成5年春から平成7年春まで 2部で5連覇を達成している。平成5年に付属高校から板橋虎太郎・高田建らを 始めとする有望な選手が入学し、彼らが即戦力として活躍しての5連覇だった。 それでも平成6年秋まで4度続けて入れ替え戦で敗退していたが、5度目の挑戦で 平成7年春に東京国際大に勝って1部昇格。もちろんそれまでの工学院も 強かったのだが、このシーズンの工学院は盤石だった。板橋が5勝0敗で防御率2.06 (打者としては4番を打ち、28打数10安打10打点で打率.351)、高田が4勝1敗1Sで 防御率0.88(打者としては5番を打ち、35打数12安打10打点で打率.343)。彼らと同期の 3番の土屋太は小技もうまいが長打も打てて、最多本塁打のタイトルを獲得し、 1番の岡部良直は打率.324、出塁率.500の成績を残した。捕手の伊藤正志は 太目の体格ながらなかなかの動きと肩の強さで堅い守りを見せた。打線の中には もちろん低打率の選手もいたが、それはそれでしっかりとつなぎの仕事や走塁での 貢献といったことができ、それに土屋・板橋・高田の長打もからんで非常に線として機能していた。 そして2人の好投手を持つことに加え、当然守備も堅かった。このときの工学院は 穴が少なかった。レギュラーのうち板橋(投手と遊撃)・高田(投手と一塁)・土屋(二塁)・ 大石真也(左翼)・細江展之(中堅)が付属高校出身の3年生。伊藤(捕手)・岡部(右翼)・ 柿木明博(三塁他)が付属高校出身の2年生。もともとけっこう強い付属高校から 実力のある選手が入ってきていることが勝因だったと思うが、お互い気心の 知れている者同士でのチーム構成ということで(もちろん他校出身の選手もいたが レギュラーにはほとんど入っていなかった)、チームとしての力がより大きな ものになっていたと思う。さらにこのときの1年生にも付属高校から何人か 入部してきており、さらに盤石の状態は続くように思えた。まさに 「工学院ファミリー」による成功である。

そして1部に昇格した工学院は平成7年秋に勝ち点2を挙げて4位。平成8年春には 勝ち点0で最下位になってしまったが入れ替え戦で残留を勝ち取り、平成8年秋に 4位。この年は板橋・高田らの学年が4年生で、今年活躍した岡川・佐藤らの学年が1年生。 両者はこの1年間だけ重なっている。


ところが迎えた平成9年、板橋・高田らの卒業とともに迎えた春のシーズンで 10戦全敗の最下位。2年生になった岡川・佐藤らががんばって投げていたようだが ほとんどの試合で大敗していたようである。入れ替え戦では2部優勝校・日本工業大の 意味不明の盛り上がりに完全にのまれ、1勝2敗で敗退。2部に転落した。 もちろん一言でいってしまえば板橋・高田の卒業が影響しているが、その影響は 戦力的なものに加え、精神的な部分でも大きいように感じた。レギュラーメンバー には依然として付属高校出身者が多くいたし、4年生の岡部・伊藤・柿木、 3年生の横溝陽介・志摩守博・井出泰晴らの上級生もいたが、何かまとまりがない。 そして2部転落後最初のシーズンとなった平成9年秋、志摩・田波泰寛(2年生)らの 付属高校出身のレギュラークラスが退部。エースの岡川がシーズン途中でけがで リタイアしてからは完全にチームの士気が下がり、最終戦で敗れれば最下位という 戦績だった。平成10年春も最下位争いをした末、5位。駿河台大との最下位争いが 定番になりつつあった。このシーズンから次のシーズンにかけて主将は横溝から 串田に交代。選手としてはまあまあうまいが、いまいち気持ちが前面に出てこなくて やる気がないように見える横溝から主将が代わったことで多少チームが変わるかと 思ったが、戦績は平成10年秋は4勝6敗で4位、平成11年春は5勝4敗1分で3位。 ただ、この2シーズンでは佐藤がわりと安定した投球ができるようになってきて 岡川との2本柱が確立しつつあり、チームの雰囲気も津島らの学年の加入で少し ずつ変わり始めたかんじはあった。雰囲気がばらばらで勝てないというよりは 「投高打低で勝てない」という、原因がようやく野球に追及できる状態には 少しずつなってきた。

ただ、いずれにしても平成9年春から平成11年春の5シーズンは工学院にとって 低迷のシーズンと見ていい。その理由はいくつかあろうが、その一つに筆者は、 「工学院ファミリー」であることが関係していると見ている。気心の知れた、 昔からの仲間によるチーム構成は、まとまる場合に非常に大きな武器となって 平成7年前後はプラスに作用したが、この低迷期はそれが逆に作用していたように感じた。 お互いを昔から知っているだけに甘えというか、なあなあになっている部分が あったのではないかと思っている。それが最も顕著だったのが現在4年生である 岡川たちの学年である。岡川は投球自体はいい投球をするが緊迫した展開で 終盤に来ると急に崩れるパターンが何試合かあったし、佐藤も平成10年秋に 安定した投球ができるようになるまではプレッシャーに弱い投手という印象だった。 串田もどこかチャラチャラしている印象があったし、塩見は味方のミスに切れて 持ち味の打撃にも影響してしまうところがあった。みんな野球はうまいのだが全体的に幼い印象で、 仲はいいのかもしれないがチームのまとまりとして機能しているようには見えなかった。 そしてその後輩たちの精神面をうまくコントロールできなかった柿木の学年、横溝の学年。 この5シーズンはそれまでと一転、「工学院ファミリー」による失敗だったと 筆者は思っている。


そして迎えた今季(平成11年秋)、工学院はかなりそれまでと違うかんじのチームと なっていた。打線が打てるようになって「投高打低」が解消されたという、 技術的なことももちろんあるが、まとまりというかいい雰囲気を感じた。 そしてやろうとする野球の形を見て、ふと感じたことがある。平成7年春、 2部で盤石の強さを誇った "先代" のチームにだいぶ似てきた。投手では板橋・高田の 2本柱に対して岡川・佐藤の2本柱。強肩捕手の伊藤や二塁・土屋を中心とした センターラインの堅守に対して、フットワークのいい捕手・串田を中心とした センターラインの堅守。各自が役割をうまく果たして線として機能した打線。 岡川・佐藤に板橋・高田までの盤石さがないこと、打線に板橋・高田ほどの 長打を打てる選手がいない(いるなら塩見)という点で、結局板橋・高田の分、 今季のチームは先代のチームには及んでいない。及んでいないのだが形としては かなり似てきていると感じた。

今季の工学院はレギュラーの半数強を4年生が占める、4年生中心のチーム。 今季の活躍は4年生のおかげであることは疑う余地がない。それは戦力的に 大きな貢献をしたことがもちろん第一だが、唯一先代のチームを知る学年として、 もう1度かつて成功した形を追い求めようと努力したであろうことも挙げられる。 そして今季が彼らにとってラストシーズンであることも、今季の4年生の活躍に当然影響を与えているだろう。 2年を超える低迷期、その責任を当然感じていただろうしその失敗を取り返す べき最後のシーズンだ。4年生たちはまず自分たちがまとまること、チームの ために最善を尽くすことから始めたのだろう。そして次にやるべきは、成功した 先代のチームの形を追い求め、後輩に継承することである。もともと実力は高い選手が そろっていたこの学年がまとまり、手本のような形になり、そこに3年生以下の 「岡川さん・佐藤さんがいるうちに優勝・1部昇格を」という気持ちもうまく重なって 一気に状況は好転したのではないかと思う。4年生にとってだけでなく、いろいろな 意味で工学院にとっての "ラストシーズン" だった今季、「工学院ファミリー」 の再結実を見た気がする。


平成11年11月14日、入れ替え戦第3戦で工学院は高千穂に惜敗。筆者はよく確認できなかったが 試合後に岡川が泣いていたという。2失点で8イニング完投した岡川を責める ような試合ではない。ただ筆者でさえ、工学院が逆転を許した7回、「なぜ安本への直球は 高めに浮いてしまったのだろう」「なぜ木建の当たりはあんなところに飛んで しまったのだろう」と悔やむくらいだから岡川はもっと悔しいだろう。 岡川が自分を責める気持ち、「自分さえ0点に抑えていれば」と思う気持ちも まったくわからなくはない。あるいは試合に負けたことだけでなく、先輩たちが 1部に上がりながら自分たちが2部に落としてしまい、再昇格の責任を取れずに 引退することになってしまったことを悔やんでもいるのかもしれない。いずれにしても、 当然のことながら、筆者に彼らの本当の気持ちはわからない。ただ、、、これは 伝えたい。工学院ナインがこのページを読んでいるかはわからないがなんとか 伝わればと思う。

高千穂に敗れたこの日、それは岡川らの学年が、長い間背負ってきた大きな重荷から 開放された日でもあった。


<付録>

「事例ベース推論」の成功
ある野球チームの勝利の裏に...

今季の両チームを見ての、別の角度からの "ひとりごと" です(やや工学的)


筆者のメールアドレスは yozo@msf.biglobe.ne.jp

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