「認定転落」と「温情昇格」
勝利の女神が下した厳しく優しい結論

(東京新大学野球連盟2部に所属する東京農工大学を卒業した山口陽三が 東京新大学野球連盟の1ファンとして独自の観点で勝手に語ります)

平成11年秋、東京新大学野球連盟の2・3部の入れ替え戦は、日本大学生物資源科学部 (以後日大生物、2部6位校)と東京都立大学(以後都立大、3部1位校)との間で 行われた。前のシーズン(平成11年春)と同じ顔合せとなり、前回は日大生物の 圧勝の2連勝に終わっていたが、今回は都立大が2勝1敗で日大生物を下し、 8季ぶりとなる2部昇格を勝ち取った(詳細は東京都立大硬式野球部のページを ご覧ください→こちら)。

筆者はこの入れ替え戦が始まる前の段階で、東京理科大学の藤島由幸君(3年生、 三条高校出身)との電子メールのやりとりの中でこの対戦の展望を次のように 書いている。 今季は日大生物を1試合観戦、都立大は1試合も観戦できていない状態だったので 的確な予想をできるはずもなかったのだが本当にわからなかった。どっちが勝つか、 どういう展開になるか、見当がつかなかった。ただ、展望の中にあるように 拮抗するだろうというかんじはした(だから結果を読みにくかったとも言える)。

筆者は第1戦を観戦に行けなかったのだが結果を聞いて、都立大の今回での昇格は ないだろうと直感した。第1戦、2回で0-15とリードされ、4点は返したが そのまま7回コールド負け。都立大は昨季も日大生物の圧倒的な打力の前に エースの中村彰宏(4年生、柏陽高校出身)が2戦完投しながらコールド負け。 そしてこの第1戦も同様な展開にされた。チームにイヤな雰囲気も漂っている だろうしここから気持ちを切り替えて立て直し、2連勝を飾るのは至難だろうと思った。 ところが筆者が観戦した第2戦、初回に4点を挙げる。先発の藤井雄太郎(1年生、国立高校出身)は 毎回のように走者を背負いながら失点を最小限に抑える。そして中盤以降に 打線も小刻みに加点し、4点差で勝った。そして第2戦終了後は、筆者の第3戦に向けての 展望は元通り "拮抗した接戦" となっていた。今季初めて見た都立大、特別強いとは 思わないが、中村が引退したあとの投手陣は思ったよりなんとかなっている。 筆者が見た藤井と椿祥隆(3年生、江戸川学園取手高校出身)、 どちらも直球とキレのある変化球がわりといいところに決まっていた。 打線も白川剛志(1年生、越谷北高校出身)という1年生の好打者が4番に入り、 打線に軸が入ったかんじだった。 ただ、都立大がどうのこうのということに加えて日大生物も思ったよりだらしない。 打球を真剣に追わない守備、ちょっといいコースに決められると簡単に見逃し三振を してくる打撃、全体に覇気を感じない。1年前(平成10年秋)には2部で優勝を飾り、 そのためかそこそこうまいように見えた選手も、今季はうまくない。実力が落ちたのか 全体の雰囲気がそう見えさせるのか、とにかくだらしなさが目立った。

迎えた第3戦は、これも筆者は観戦していないのだがとんでもないことが起こった。 試合開始の10時30分の段階で日大生物の選手がそろっていないという。実はこの前日 (11月13日)、連盟をとり仕切る創価大が、出場していた明治神宮大会で青山学院大学に 延長18回で引き分け、翌日に再試合となっていた。その創価大の試合後に、入れ替え戦に 立ち会うはずの創価大が立ち会えないということで1度中止連絡を各チームに 流したという。その後、結局は「やっぱりやります」という連絡が流れたというのだが、 このドタバタが翌日に影響したらしいのである。ただ、都立大はちゃんと来ていたという。 結局は日大生物のチーム内での連絡不徹底だったと思うのだが、一応連盟のドタバタ があったということで不戦敗にはならずに試合は行われたようである。通常なら 不戦敗のところを試合をやらせてもらってそれでもやっぱり負け。1番大事な試合で なんともだらしないところを見せての日大生物の3部転落となった。


今回の両チームの戦い、筆者は結局1試合しか見ていないが、野球における実力 だけを比べれば、本当にどちらが勝ってもよかったと思う。勝った方が「来季の 2部参入権」を獲得するこの戦い、どちらが勝っても来季2部で苦戦する気は するもののこの両チームのどちらが上という結果になってもよかったと思う。 いや、むしろ野球における実力だけなら日大生物の方がほんの少し上だったかも しれない。しかし今回の入れ替わりに関しては、筆者を含めてちょっと事情を知っている 関係者ならばある程度納得の結果、場合によっては喜ばしい結果なのではないかと思う。 それはどういうことなのか? それを語るには今回の入れ替え戦、あるいは 今季の両チームの戦いを振り返るだけでは不十分である。

下に両チームの平成8年以降の戦績を示す。平成8年にこだわる意味は特にないが、 あとの話がわかりやすくなるだろうと思うので一応ここを境にしておく。
日大生物の戦績
平成8年春 1部4位(5勝8敗、勝ち点2)
平成8年秋 1部6位(2勝10敗、勝ち点0)、入れ替え戦で杏林大に2勝1敗で1部残留
平成9年春 1部4位(4勝6敗、勝ち点2)
平成9年秋 1部6位(2勝9敗1分、勝ち点1)、入れ替え戦で杏林大に0勝2敗で2部転落
平成10年春 2部4位(4勝6敗)
平成10年秋 2部1位(8勝2敗)、入れ替え戦で日本工業大に0勝2敗で敗退
平成11年春 2部6位(2勝8敗)、入れ替え戦で東京都立大に2勝0敗で2部残留
平成11年秋 2部6位(2勝8敗)、入れ替え戦で東京都立大に1勝2敗で3部転落

都立大の戦績
平成8年春 2部6位(3勝7敗)、入れ替え戦で東京外国語大に1勝2敗で3部転落
平成8年秋 3部4位(5勝5敗)
平成9年春 3部1位(8勝2敗)、入れ替え戦で東京理科大に0勝2敗で敗退
平成9年秋 3部1位(9勝1敗)、入れ替え戦で駿河台大に0勝2敗で敗退
平成10年春 3部1位(9勝0敗1分)、入れ替え戦で駿河台大に1勝2敗で敗退
平成10年秋 3部4位(4勝6敗)
平成11年春 3部1位(9勝1敗)、入れ替え戦で日大生物に0勝2敗で敗退
平成11年秋 3部1位(8勝2敗)、入れ替え戦で日大生物に2勝1敗で2部昇格

今年になって入れ替え戦で顔を合わせることになった両チームも、平成9年までは 1部校と3部校という立場だったのである。
日大生物は平成9年まで長らく1部に滞在し、ほとんどのシーズンで下位に低迷 しながら2部転落は免れてきたが、いよいよ戦力が弱り切った平成9年秋に 杏林大に入れ替え戦で敗れて2部転落。筆者があちこちで「認定転落」と 呼んでいるのがこのシーズンの日大生物の転落である。その後平成10年春は 2部でも奮わず4位に低迷したが平成10年秋に優勝。しかし1部復帰を目指した 日本工業大との入れ替え戦でいいところなく敗れたのがケチのつけはじめか、 今年の春、チャンピオンの立場で迎えたシーズンに最下位に低迷。入れ替え戦では 都立大に大勝したものの、今季もう1度最下位に低迷し、都立大に雪辱を食らった わけである。日大生物がなぜこのような急降下をしたのか、はっきりとした 原因を特定できるわけではないが、まず練習ができていないということを筆者は 聞いている。日大藤沢高校のグランドを使うらしいのだが、これは高校生が優先して 使うので、練習をするとすれば空いている時間、早朝などにやることになるという。 逆に考えればそれでよく1部に長く滞在していたと思うわけだが、このチームは 個々の血統が高い。ほとんどが野球強豪校であるあちこちの付属高校から 来ている部員たちである。そういう集団だったからこそ1部に長く滞在していたものと 思う。ただ、それも本当に滞在していただけというかんじで、1部の試合では 「それでも1部か!?」というヤジを受けたりもしていた。練習ができない ことに加えてチームとしてのまとまりや士気といったものが足りない印象もあった。 その部分が2部転落によって加速してしまったのだろう。今回の入れ替え戦第3戦 の例は極端としても、ウォーミングアップをだらだらやる姿、平気で試合に遅刻してくる 部員、そういったものは筆者の東京農工大在学中にも見られた。平成11年秋には シーズン前から関係者に「緊張感が伝わってこない」「日大生物の優勝だけは まちがってもないだろう」とまでささやかれるチーム状況にまで陥った。 前回(平成9年秋)の1部から2部への転落を指した「認定転落」。それから 2年しかたっていないにも関わらず今回、2部から3部へ転落。こういう状況に ふさわしい言葉というのも失礼ではあるが「2度目の認定転落」の言葉が 妙にふさわしく感じてしまう状況を、日大生物は迎えてしまった。

対する都立大であるが、平成8年春後の入れ替え戦で不遇の3部転落を味わった あと、今年の春まで6季で4度の2部挑戦。しかし毎回のように2部の壁の前に、 あまりいいところなく敗れ去っていた。この状況については、都立大OBの保田学 (平成10年度4年生)が引退時に次のような指摘を筆者にしたことがあった。 「3部の野球のレベルが落ちている」ということである。つまり周りが弱いから 都立大は圧倒的な戦績で優勝してしまうのだが入れ替え戦では勝てない。そして 周りが弱いから都立大自体の戦力もなかなかアップしない。筆者は平成6年秋後に 自分のチームが3部から2部に昇格して以来、3部をよく見てないのでよくは わからないが、確かに都立大がなかなか入れ替え戦で勝てない状況を見ていると その指摘も納得がいく。ただ、もちろんそれはあろうが、都立大に若干運が なかったことも言える。平成9年春は、東京理科大が2部で開幕からかなり 悪い状況で、結局最下位になったわけだがシーズン途中からチームに戦力として 加わった白坂公一(当時1年生、仙台第一高校出身)が入れ替え戦でも好投。 後に2部を代表する投手となる白坂相手にいい勝負はしたが敗退した。 平成9年秋、平成10年春は駿河台大が2部で最下位となったがこれも、 駿河台大が弱かったというよりもあまりチームがかみ合わなくて最下位になった かんじ。普通に戦えば駿河台大の方が上だったと思う。加えてこれも保田から 聞いたと思うのだが、この2回の入れ替え戦のどちらだったか、主将で投手も 兼ねていた保田がけがで試合に出場できなかったということだ。このあたりも 運がなかったとも言える。そして最も運がないと感じたのは平成11年春だ。 このシーズンは日大生物が2勝8敗で最下位となったわけだが、メンバーと しては前のシーズン(平成10年秋)の優勝時と同じメンバー。2部を圧倒的な 攻撃力で制した日大生物の打線に対してエースの中村はよく立ち向かったと 思うが結果は2戦ともコールド負け。このような経緯をたどって、ようやく今季、 2部昇格を果たしたわけである。

前回は日大生物が入れ替え戦に出てきたことが都立大にとって運が悪かったが、 今回はそれが結果的に運がよかった。連絡不徹底などで試合開始時に人数が そろわないようなチームが相手で運がよかった。ただ、先に書いたように 純粋に野球においての実力を比べれば、都立大にとって日大生物は、まあいい勝負と いったところで特別運がいい相手でもなかったように思う。ただ、多くの 関係者、ちょっと事情を知っている関係者は、心情的には都立大に勝たせたいと 思っていたと思う。都立大がたどってきた数々の苦難、それを考えれば今回、 どちらが勝ってもよかった入れ替え戦で勝ち取った昇格は「温情昇格」の言葉が 妙によく似合う気がする(偶然にも都立大の入れ替え戦結果を伝えるホームページの 中で、彼らも「勝利の女神が味方した」という主旨の文を書いているあたりは 興味深い→こちら)。


今回の入れ替え戦の結果にはいくつかの教訓が含まれる。日大生物は、1年前の 2部優勝時に比べればハイレベルな実力を持った選手は減ったが、やはり現在も 個々の血統は高い。ただそれだけでは勝てないこともあるということだ。勝つ ためには他のいろいろな要素をうまく組み合わせなければならないことが、 よくわかると思う。また、都立大の昇格からは次のようなことが言える。 1番さいきん都立大が2部から3部に転落したのは平成8年春後の入れ替え戦 で敗退したとき。このときの都立大の敗退に関して筆者は「選手起用の点で最善を 尽くさなかったことがその一因ではないか」といった指摘をしている (→こちら)。そんなことは筆者が断言できる ことではないし、筆者の言う「最善」を尽くしたところで2部に残留できたかも わからない。また、そのとき残留しても後に転落したかもしれない。しかし 唯一残った事実は、都立大はその "先代のツケ" を取り返すのに3年半の歳月を 費やしたことである。入学早々、転落を目の当たりにした1年生は現在4年生。 再び2部で戦うことなく全員が引退した。入れ替え戦、もちろんそれだけでなく ふだんのリーグ戦もだが、目の前の試合に最善を尽くす大切さ、回避できる危険を 回避する大切さ、何らかのミスがあとに与える影響の大きさ、そういったものを改めて感じる。


とにかくも都立大が昇格、日大生物が転落という結果になった。都立大とは 筆者が現役時代はいつも同じような戦績でライバルのような存在だったが、 来季久しぶりに都立大と筆者の母校・東京農工大がリーグ戦で戦うことになる。 都立大の活躍も期待したいところだが、もちろん後輩にはしっかり都立大に 勝つ試合をしてほしい。やや複雑な心境といったところだろうか? 一方の日大生物。 連盟設立当初から当連盟に所属し、その多くの時間を1部で過ごした伝統ある チーム(そういう意味では都立大にも1部常連校の時代があったようだが。 昭和50年代前半か?)。連盟設立時には2部までしかなかったこともあり、 3部転落などという事態はおそらく初めてではないかと思う。伝統あるこのチームに、 「3度目の認定転落」が訪れないことは願いたい。


筆者のメールアドレスは yozo@msf.biglobe.ne.jp

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