平成10年春季、東京新大学野球連盟の1部は近年まれに見る3校による混戦となり、1勝1敗のまま日程を消化し切れずに結局最後まで残った流通経済大学VS東京学芸大学の対戦が、勝点4同士でぶつかる、事実上の優勝決定戦となり、3-2で流通経済大学が辛勝し(5/23)、9季ぶりの優勝を飾った。さいきんは創価大学が8連覇を果たしており、昨年の明治神宮大会では創価大学はベスト4。名実ともに連盟の盟主であった創価大学だったが、8連覇を支えた中村隼人投手(長崎日大高校出身)が卒業で抜けた今季、流通経済大学・東京学芸大学に勝点をとられ、3位に終わった。また、トータルでの優勝回数は圧倒的に多いものの創価大学の8連覇の間、ほとんど2位に終わって悔しい思いをさせられていた流通経済大学がこれに代わって優勝を飾ったということも非常に感慨深い(星取表は他のページをご参照ください→こちら)。
さて、筆者であるが、筆者は現在東京農工大学の大学院修士課程2年次に所属する学生である。大学野球の現役を退いてから3年目、大学を卒業して2年目となる。大学院進学後は比較的時間にゆとりができたこともあり、昨年から連盟の1部のリーグ戦を観戦する機会も増えた。筆者は創価大学が全国大会(大学選手権や明治神宮大会)に出場した場合には、連盟代表校ということで応援するものの、リーグ戦では「アンチ創価大学」の立場を取って観戦している。やはり強すぎる存在は逆に応援したくない、という心理からだろうか。自分が「アンチ巨人ファン」であることと似た心境からかもしれない。スタンドでも、オールドファン(?)が応援したり時にオバさんがヤジを飛ばす流通経済大学の応援や、女子大生がキャーキャー言う東京学芸大学の応援はまったく気にならないものの、学生だか社会人だかわからない変な若い男が応援団気取りで一人で水をかぶったりして気合いを入れている創価大学の応援にだけは非常に不快感を感じているくらいである。 ここから先は、一応筆者がアンチ創価大学であることを少しだけ念頭において読んでいただければ、と思う。
現在この連盟ははっきり言って創価大学中心に動いている。連盟の事務局が創価大学光球寮内にあり、それを動かしているのが創価大学の主務であるから、ある意味当然と言えば当然だ。連盟の学生委員長を兼ねる創価大学の主務は、雑務が多いことと想像されるが、本当に毎年しっかり仕事を行っていると思う。筆者はこれまで5人の学生委員長と接する機会があったが、毎年代がわりはするもののしっかり仕事が引き継がれている印象を受けるし、周囲の人間に対する人当たりもいい人が多い。創価大学野球部が、人材育成にも気を配っているのだろう、という印象も受ける。筆者はその野球部としての体制やメンバー一人一人について、なんら文句はない。みな、野球がうまくてうらやましいくらいである。
問題なのはその周囲である。会長・副会長といった連盟関係者、もしくは審判団といった存在が、どうも創価大学に大きく寄っている印象を持たずにいられない。彼らにしても結局直接接触するのは創価大学にある事務局、ということになるのだろうし、創価大学野球部全体の彼らに対する態度も多分かなりいい印象を与えるものなのだとは思う。ただ、それは試合における審判の判定とは関係のないことであろう。審判団の中には、どうも「創価が負けることはないだろう」「創価が勝たないと何かおかしい」といった雰囲気があるように思う。今季の開幕戦で創価大学は、昨年1部昇格を果たしたばかりの日本工業大学に大苦戦し、1-0創価リードで8回を迎えた。ここでの日工大の攻撃で、明らかにセーフと思われた2塁での犠打野選のプレーをアウトと判定され、日工大は広がり始めた好機をつぶされ、終わってみれば8-0でコールド負けを喫した。昨年のリーグ戦では、創価大学の選手が死球で出塁し、そこでなんともなかったのに2塁進塁を果たした後に臨時代走を申し入れ、これが受け入れられたこともあった。「数え上げればきりがない」とまで言えないものの、創価大学に不利な判定はそう言えばあまり見られない。昨秋の創価大学VS東京学芸大学の第1戦(10/9)では横溝氏・中原氏・竹内氏・?氏の4名が審判を務めたが一部から「創価にとって審判最強だな。これで勝てなかったら創価ヤバイぞ」などという声が漏れること自体が普通に考えればおかしい(結果は接戦の末、創価大学が9回サヨナラで東京学芸大学を振り切った)。
連盟副会長の松井道雄氏もしかりである。数年前の連盟誌の対談では「1部から4部まで連盟のことについて本当に詳しい」などと紹介され、「選手たちが自分の子どものようにかわいい」と語っていた。まあ、2〜4部についてそれほど詳しくはないと思うが、確かに1部の試合にはよく観戦にきており、「連盟のことに詳しい」とはあながち嘘でもなさそうである。先日は駒沢球場のスタンドに来ていたプロ野球のスカウト陣にも名刺を差し出して挨拶を怠らず、何気なく創価大学の益田隆芳投手(工学院大学附属高校出身、4年生)を誉めるなど、「選手たちが自分の子どものようにかわいい」といった発言もあながち嘘でもなさそうである。ところが松井氏、創価大学以外の1部の試合を果たしてどれだけ見ているのだろうか? 確かに優勝が決まる5月23日の最終戦は、流通経済大学VS東京学芸大学の試合ではあったが、いた。創価大学が試合があった日にもう1試合見て行くこともある。しかし創価大学の試合が第1試合で終わったところでさっさと帰ることもなくはない。まして創価大学が試合のない日に果たして観戦に訪れているだろうか、と考えるとやはり疑問が残る。
創価大学にはファンも多く、期待も大きいし勝利に対する賞讃も大きい。そういった中で東京学芸大学が小倉丞太郎(桐蔭学園高校出身、4年)という連盟屈指の好投手を擁して今季創価大学に、かなり久々となるはずの勝点を挙げ、また、悔しい思いをさせられ続けていた流通経済大学が創価大学との第1戦を落としながら連勝で勝点を挙げ、最終的に9季ぶりの優勝を飾ったことは非常に意味深い。流通経済大学の、神宮での活躍を心から祈りたい。そう言えば5月23日に流通経済大学が優勝を決めた時、閉会式までの間、流通経済大学の太田垣監督はグランドには姿を見せなかったし、閉会式でも関係者の中でも1番端に立ち、創価大学・岸監督、東京学芸大学・及川監督といった人たちと会話を交わした様子もなかった。悔しい思いをさせられ続けた一匹狼っぽくて、それはそれで、少なくとも筆者には格好よく映った。閉会式が終わった時、松井副会長が唯一太田垣監督に握手を求めた。せめて松井副会長が本心から流通経済大学の優勝を祝福していることをささやかながら祈りたい。