麒麟はきたか?...岐阜紀行

(山口陽三筆)


おいおい、麒麟じゃないぞ...


岐阜縛り

ひさしぶりの一人旅は、とある時期に岐阜県に向かった。 少しできた隙間の時間、遠出は難しい中でどこに行くか? 年齢を重ねて温泉が好きにも なってきていた。どうせなら行ったことがない地で温泉があるところ。 そんな条件で頭の中で探していた時に、最初に浮かんだのは「県としては岐阜県」だ。 筆者は「出向いた都市リスト」を作成しているが、 本州の中で数少ない、行ったことのない県として岐阜県が残っていた。 名古屋から遠くないという知識はなんとなくあったので、移動の時間は現実的な 時間で行けるだろう。朝に横浜市内の自宅を出れば昼には岐阜県に入れる。 さて岐阜県には何があるのか? 大学時代、キャンパス近くのよく行った居酒屋が 「飛騨高山」という名前だったな。たしか岐阜県内だ。温泉と言えば? 下呂温泉は有名だ。高山に向かう途中が下呂温泉らしい。なんとなく つながってきた。行き先を下呂温泉に定めた旅プランが動き始めた。

なんとなく行程が定まったところで止まって、というか本当に行くのか行かないのか 自分の中で決まらないまま時間が過ぎて、さあ行こうかと再起動し始めたのが遅かった。 時期的な問題もあるが、宿が空いていない。また、その影響もあるのだろう。 空きが見つかっても想像以上に高い。急遽、代替の場所を探すことになったが なぜか「岐阜県」の縛りは取れず、岐阜県内の温泉を探すことに。 途中で名前があがった飛騨高山には温泉はあるのか。あるようだが下呂温泉から さらに奥で、移動に時間がかかりそうだ。そんな中で、何をどうしたか忘れたが 長良川温泉に流れ着いた。

長良川と言えば長良川球場がある。詳しく知らないが、ラジオの野球中継で 名古屋から(県は違えど)ほど近いと聞いたこともあるし、(川は)「清流」だという キャッチフレーズもついてまわっていたイメージもあった。 野球を中心に据えた一人旅のつもりではないにしても球場を見ることもできそうだ。 また、岐阜駅からバス圏内。県の中心地であり高校も多く、別のリスト 「訪れた甲子園出場校リスト」に 加えられる学校もありそうだ。宿も、お安くはないものの下呂温泉よりは 手ごろな価格で見つかった。いざ、長良川へ。このときはまだ、のちの NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の舞台でもある稲葉山城がそびえる地であることは あまり認識がない。

余談だが、結局野球人の気持ちが頭をもたげ、甲子園出場校をどこか めぐれないか探し始めたわけだが岐阜県の強豪と言えばどこか? 鍛治舎監督が就任した県岐阜商は有名、大垣日大の大垣市も 岐阜駅からそれほど遠くない。そして思いついたのは中京学院大中京。 これは果たしてどこなのかと調べてみると瑞浪市。 乗り換え検索をしてみると、岐阜駅から名古屋駅に戻ってもう1度 岐阜県内に入るようなルートらしい。高山も岐阜駅から見て だいぶ奥の方だというイメージがあったが、北方面だけでなく 東方面に向けても、岐阜県は奥が深いな。そんなことを感じた。


岐阜入り

とにもかくにも始まった岐阜紀行。新横浜駅から名古屋駅まで新幹線、 そして乗り換えて岐阜駅へ。昼過ぎに到着した。岐阜駅で見つけたのは 織田信長像。美濃というと斉藤道三であり、織田家の尾張は愛知県なのかな と思っていたが、のちに美濃を平定した武士として織田信長が地元では崇められているのか。


「信長ゆめ階段」(左)を降りていくと...金色の織田信長像(右)

さて、一人旅では現地での食事も楽しみだが、今回の旅は1泊2日であり、 朝食はついた宿泊プランだったので、食事は初日の昼と夜。 場合によって翌日の昼も入れても、3回だ。さて何を食べるか。 これもインターネットでざっと調べたが、岐阜の名物料理として 出てきたのは飛騨牛やら鶏ちゃん、あとは長良川なら鮎。 多少迷ったが飛騨牛と鮎は入れることにした。 かくして岐阜駅近くで飛騨牛を目指す。駅近くのビル(岐阜シテイ・タワー43)に 「匠味」なる店があることをやはりインターネットで発見。 ビルに入るとけっこういろいろなお店があって多少迷いはするものの 結局「匠味」へ。このとき13:40ごろ。ランチは14:00までで、それまでに入れば いいだろうという気はするが、14:00までで食べ終えて出ないといけないようなことを言われる。 それでも料理はすぐに出せるというのでいただくこととはしたが、 多少焦りながら食べた。途中、さらに遅れて入ってきた客もいたので たぶんいてもいいのだろうと、ご飯おかわりも加えて、飛騨牛網焼きランチを 堪能した。


記憶に残るメモリアルセンター

岐阜駅に戻り、バスに乗車。次に目指すのは長良川球場。岐阜メモリアルセンター という、総合運動公園(?)の中の一施設である。到着はしたが時期的に、一帯に入れない。 駐車場の入口隙間から一帯には入ったが、球場入口も開いておらず、中を見られない。 外からちらりとのぞき見た程度だった。それでもコンコースには甲子園で活躍した 松井栄造という人の銅像が建てられている。背後には各種スポーツの県代表の 活躍ぶりを記した銅板もあるが、せっかく甲子園で活躍した選手の銅像があるわりに 硬式野球の記録が見当たらないのは...不思議。



地図的にはここから県岐阜商業高校が近い。歩ける範囲。浜山公園野球場と大社高校 ほど近くはないが、県を代表する野球場と、県の高校野球界の草創期を牽引した伝統校が 歩ける範囲内に立地しているというのは偶然なのか何か引力が働いているのか。

「歩ける範囲」と思ったわりには歩いたがようやく着く。目的は学校ではなく、 甲子園出場校の野球場。ましてや県岐阜商は高校野球界に旋風を巻き起こした(一石を投じた?) 鍛治舎監督が就任して強くなり始めている注目の野球部だ。 門を通らなくても野球場に行ける、というか外から見ることができる。 グラウンドとしてはまさに伝統のある公立校、というかんじか。 他の部活動と共同のようだが、ベンチ、ちょっとした観客席に、ちょっとした照明もあり、 部活動に打ち込めそうだ。ただ、残念ながら訪れた日は休みらしく練習していなかった。


左:ライト方向から。民家隣接もちょっとした照明も。
右:1塁側ベンチ前から。バックネット裏観客席(その下に本部席)も。カウントはBSO。


十八楼

宿として予約したのは長良川のほとり、「十八楼」。松尾芭蕉が訪れてどうのこうの、 というのもインターネットで見たのでよほど古いのだろう。がんばればここまでも歩ける。 県岐阜商から岐阜メモリアルセンターに戻る方向に歩き、通り過ぎて橋で長良川を渡って 宿場町の雰囲気の中にたたずむ。途中で再度通り過ぎた岐阜メモリアルセンターだが、 一帯は広大だ。野球場・陸上競技場・テニスコートに「で愛ドーム」なる室内設備等の 運動施設がそろっているのもそうだが、隣には国際会議場があり、公園があり、 長良川うかいミュージアムなる博物館への案内板も見える。国際会議という用件で 訪れた外国人を、鵜飼いなり清流なり温泉なりの、日本の古き良き文化で もてなせる長良川という地、なかなか奥が深いではないか。

到着してチェックインし、早めの風呂。露天風呂も内風呂もあるのだが、 内風呂の中にも数種類の風呂(温度も違ったりする)も用意されていて いろいろと楽しめる。風呂上がりには1杯無料のビールも。 う〜む、満足。部屋に戻ってからはテレビを見ていた程度で大したことは していないが優雅な時間を過ごした。さてそろそろ夕食を食べるかと外出。 チェックイン時にフロントでおすすめの店を2店聞いていたが、そのうちの 一つ「川原町泉屋」へ。チェックイン後の周辺散歩で、鮎が食べられる 店だな、というのは確認していた。中に入ると、土産物を並べたスペースに 加えて、食事もできるスペースもあるかんじ。夕食に来たと告げると 「今からですか?」的な雰囲気に。19:30で焼き物は終わりになってしまい、 鮎を焼いてくれないという。う〜む。それでも鮎を使った雑炊は出せる というので、それをいただくことにした。店に入ったのが19:30だったが 危ない、危ない。土地によっては夜が早いものだな。いつもはビール党だが 地元の食を地元の日本酒で、と思い、おすすめのお酒をいただいた。 雑炊のやさしい味とともにほんわかとした温かい気持ちに包まれた。

もう1件どこかで飲めるのか、と周囲を少し歩き回ったが店がない。 しかたなく宿に戻って部屋飲みしながらテレビ...となった。

「川原町泉屋」の前後は部屋飲みでテレビ、の時間が多かったが、 並行して1件、くだらない(と言っては失礼か)対応もあった。 大学の野球部OB会から数年前に現役野球部に寄贈した打撃マシンの寄付金を 払った/払わないでもめている老人OBが出てきて、当時の記録やら記憶の 掘り起こしを、何人かのOBと連絡を取りながら進めたりした。 ある意味での「岐阜メモリアル」だ。 旅に来ているのに何しているの、俺? と思いながら、これも悪くないというか、 中断が入らず取り組めるというか、印象的な思い出というか。


温泉宿の朝

翌朝目覚めた後、朝食前に散歩。十八楼の中のあらゆるところに飾られた、 宿の歴史やら周辺の散策案内やらにより、このあたりはかつて、 地理的に日本のまんなか辺であることに加えて船が物流の中心だった 時代には商業的にも要衝だったことが短期間に知識として詰め込まれる。 悠大な長良川に触れながら周囲を歩きたくなった。ふだんは神社などそれほど興味もないが、 パワースポットだとの触れ込みにも引かれて、伊奈波神社へ。 なるほど、入口、社に向かう坂道、階段、なかなかに厳かな雰囲気を感じる。 長良川の川沿いを歩くルートにはならなかったが、道中、すごく 高い位置(山の上)に城が見える。それが稲葉山城、のちに織田信長が岐阜城と 名付けた城であることは、十八楼滞在中に認識できてきていた。 よくは見えないがあんな高い位置に城を築くなど、さぞ大変だったろうと思う。 昔の人たちはいろいろな意味ですごい。

散策から戻って朝食。バイキング形式。温泉宿でのバイキングは、 時間帯・料金帯によっては子どもが走りまわってしまって大変なことにもなりえる。 この日は...家族連れは多かったがまずまず全体のスペースも広めで、 苦も無く食事を進められた。バリエーションも多く、ご飯を何杯も いただいた。そして朝風呂。夜にはよく見えなかった長良川の流れも 目にしながらの温泉浴はとても気分がよい。散策、朝食、朝風呂。 温泉旅行の新しい楽しみ方に触れたひとときだった。


大垣にて

岐阜駅まで乗せてくれる宿のシャトルバスに乗って岐阜駅へ。 ここから大垣駅に移動して、球場を1個見学した。 大垣市北公園野球場。ただしこれまた、敷地内には入れたものの 球場は開いておらず。せっかくの一人旅だから野球見学もしよう、 岐阜駅から至近のエリアだと大垣かなと大垣に来たものだった。 球場の他にもう1個、甲子園出場校を見られないか。思い浮かんだのは 大垣日大高校だ。ところがこの高校、学校所在地は行きやすそうだが 野球部のグラウンドは別の場所にあるらしい。しかもその場所が、 インターネットでちょっと調べた程度だとなかなか出てこない。 所在地の町の名前くらいまではわかったが、最寄り駅からも 近くなさそうだし、町自体も広そうで見つけられる自信がない。 最寄り駅の駅員に聞けばわかるのではないかと自問したりもしたが、 微妙に重ねてきた年齢による疲労も感じる。昔なら行ったんだろうな。 断念した。

大垣駅をあとにしてひたすら東進。通過する静岡で知人と会う プランも考えていたが前日まで連絡取れず。そのままスルーして 神奈川に戻ってきた。


あの1泊があったから

この岐阜旅行は、自分の中で「温泉」というテーマこそあったものの これまでの一人旅ほどてんこ盛りではなかった。「野球」が主テーマでは なかったこともあって、野球場2個、甲子園出場校1個の見学にとどまった。 なにより初日の昼すぎに岐阜入りして翌日昼前には大垣を出ていたので 24時間もいなかったし、岐阜らしい食事をしたのも2食だけだ。 長良川にはいたけれど鵜飼いや川下りを体験したわけでもない。 特別なスポット、エピソードにも乏しい滞在ではあったけれど、 非日常の、かけがえのない思い出となった。

何年も前にサスペンスドラマをよく見ていたころ、不倫カップルが1年に1度、 1泊2日の温泉旅行をしているという設定があった。女性側の思いとして、 その2日間があるから1年間、つらい仕事にも耐えられる、という内容の ことが語られていた。筆者自身はそこまでつらい日常を過ごしては いないつもりだし、今回の岐阜旅行はもちろん不倫でもなければ現地で 色っぽいことは何もなかった旅ではあるので、先にあげた女性の状況と 同じではない。でものちのち「あの岐阜での1泊があるから今、がんばれる」と 事あるごとに思い出せる、淡くて優雅な思いが詰まった、貴重な人生の一コマになった。


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