現実逃避行、福井

(山口陽三筆)

平成21年のゴールデンウィークは、近年にないほどボコボコだった。 前年に野球人生で初めて果たした全国大会出場(クラブ野球)。2年連続の出場を目指して 始まった、そこにつながるクラブ選手権神奈川県予選でなんと初戦敗退(5月1日)。 そのショックも覚めやらぬ中、5月5日には交際を申し込んで返事待ちだった 女性からお断りの返事。これだけ短期間での野球と恋愛のダブルパンチは経験がない。 女性にふられたのが5月5日13:40ごろの横浜。24時間後には福井県営球場にいた。


福井の理由

もともと、北信越の野球独立リーグ(BCリーグ)を見てみたいとは思っていた。 先の野球の大会では勝っても5月4日には神奈川県予選が終わる予定で、 ゴールデンウィークの残り5月5,6日、またすぐの週末の9,10日あたりで調整 できる可能性があるので行ってみようかとは思っていた。新潟・長野・群馬・ 石川・富山・福井の6県で行われているBCリーグ、旅行者としての視点も含めて どこに行こうかと思っていたが群馬は北信越と言っても関東なのでパス。 長野はいい思い出がないのでパス。新潟は昨年の夏に五泉で野球を見ているので 今回無理に行かなくてもよい。石川は野球は見ていないが一昨年 一人旅に出た。必然的に、行ったことがない場所 ということで富山と福井が残り、BCリーグの日程上、5月6日の福井県営球場で 行われる試合を見ることにした。

傷心の5月5日、いくつか下調べをし、不安も残るものの翌朝早くの出発を決めた。


福井入り

関東圏から福井へのアクセスは大きく3通り。羽田空港から小松空港に飛んで陸路から入るか、 新幹線で米原まで行って特急電車等に乗り換えるか、東京から夜行バスか。 飛行機は速いが高い。夜行バスは安いが6日に福井に入るのに5日夜に出発するのは 心身ともに準備が間に合わない。往路はオーソドックスに米原経由で電車で行った。 5日朝、新横浜駅から乗車。帰省ラッシュの時期とはいえ下り電車なので車内はガラガラ。 5月6日11時、問題なく福井駅に着いた。


えちてつ福井駅にて。現実逃避にちょうどよい、現実離れしたモニュメント。


高校コレクション

全国の野球場を巡る趣味に加えて、甲子園出場校のグラウンド鑑賞のコレクションも 持つ筆者。あまり時間に余裕はない中でも1校は見ようと思った。福井で野球が 強い高校というと福井商業高校が思いつく。福井市内にあるらしく、福井駅からも遠くない。 ただしこれだけの強豪校だと学校の所在地と別の場所に野球場がある可能性も高い。 そこまで調べられる時間もなかったし、当日タクシーで案内してもらう時間も なさそうだった。「えちてつ」(えちぜん鉄道)の福井商業高校最寄り駅の隣の駅に北陸高校が あることを突き止めた。甲子園で名前を聞くことはあるが福井商業高校ほどではない。 ホームページで、野球場も学校敷地内に存在することがわかりやすく 紹介されている。駅からも近い。この1校にしぼった。

えちてつ田原町駅で女性の駅員さんに北陸高校の所在を訪ねる。 ついでに福井商業高校の場所および、グラウンドが構内にあるかどうかを聞いたが、確かではないが グラウンドは別の場所だと思うとの回答。親切に対応いただいた。 筆者よりも少し年上くらいの方か。恋愛モードが抜けない自分は、この方は 独身なのかどうか、独身ならばこの地のローカル電車の駅員で出会いがあると すれば何か、地方でも公務員は少なくともいるから公務員合コンなのだろうか、 などと勝手な想像を膨らませるも、ここで恋が始まってもちょっと距離があるので ひとまずシャットダウン。

北陸高校まではすぐに行けたが、正門には警備員みたいな人が一応おり、 敷地内をぐるっと壁と堀で囲み、場所によっては鉄線も使って、微妙に入りづらい 空気をかもし出している。野球場も同様ではあったが、門の隙間から入って 撮影はした。高校生が練習中ではあったがあまり人数が多くない。 室内練習場の方にいるのか。内野は黒土、室内練習場、照明、ベンチ、ブルペン等 ひと通りある。全体的に古め。古き強き野球部のグラウンド、というかんじか。


正門。立派な校舎だが古め。


一塁側ファールエリアより。右手に室内練習場も。


越前そば

福井駅に戻って昼食。越前そばというのが有名らしく、それを食べさせてくれる 店をインターネットで探してあった。ただ、見つかったのがデパートのレストラン街の中。 地元の名産を食べるのにそれもどうなのかと思ったが、まあ、それはそれ。 腹が減っていたのでざる大盛り。わりとお腹いっぱいになった。硬めで、平らで細めなかんじのそば。 おいしかった。


大盛りは単に2段になっている


BCリーグ

雰囲気

福井駅からバスに乗って福井県営球場へ。今回の最大の目的である、BCリーグ観戦だ。 この日は地元の福井ミラクルエレファンツと、富山サンダーバーズの対戦。 到着が試合開始直前くらいになってしまったので、シートノックや、試合前の ファンサービスとしてどんなものがあるのか、などは見られなかったが、 球場の周りではオリジナル応援歌が流れているなど、雰囲気は盛り上がっていた。 ゴールデンウィークの昼間でもあって、子どもも多かった。 レプリカユニホームやTシャツに、何人もの選手のサインが入っているものを 着ているお客さんもわりといる。チームが地域に密着しているのだろう。 ホームチームのスタンドである1塁側のスタンドに目をやると、けっこう お客さんも入っている。チームカラーの黄色が目立つ。


左:1塁側スタンド、右:多くのサイン

この試合はマクドナルド協賛ということらしく、試合前にはドナルドが、 マスコットの象といっしょにフィールドに出て盛り上げていた。


左:スタメン紹介、右:始球式

入場料は1400円と、4年前の四国リーグより高い。売っているグッズは四国リーグと 似たかんじだが、選手名鑑があった(買わなかったが)。入場料の高さが響いたのと、 マスコットの象がいまいちかわいいとは感じない、などのことでグッズは結局買わず。


左:スタンド内を歩くマスコット、右:7回攻撃時の風船飛ばし


左:売店の様子、右:地元テレビ、カメラマンと女性ディレクター(?)


レベル

肝心の野球の方だが、四国独立リーグを1年目に見たときとほとんど同じ印象を持った。 クラブ以上企業以下のレベルではあるが、だいぶ企業に近い。ただしこの中から プロ選手が出るかと聞かれると疑問符はつく(実際には昨年も出ているのだが)。 そして投手や守備のレベルはよいが、打撃のレベルがあまり高くない。

チーム同士の比較で言うと福井はリーグ発足から1年遅れて参入したチームである一方、 富山は昨年のリーグチャンピオンだ。おのずと富山有利かと思ったが、 試合は一応その通りに進む。初回にいきなり連打で好機を作って先制。 ただしこのあとの福井の先発投手・加藤の投球はよかった。ピンチでの制球がよく、 甘い球がほとんどない。5回2死2塁から9番・塚本をつまらせながらも打球がサード後ろに 落ちてしまって1点、さらに上位にまわって富山で数少ない好打者だと思った 2番・山内に投手強襲安打を打たれて0-3とされてはしまうものの、全体的に いい投球だった。富山の先発投手・串田もタイプとしては同じかんじ。 加藤と負けず劣らずだと思っていたが、福井の打線がそれ以上に弱かった。 4回2死満塁は6番・小牧がカウント2-3から高めボール直球に手を出してしまい三振。 8回無死1.2塁で串田を降ろすも2番・清水遼送りバント、3番・慶家(けいや)サードゴロ、 唯一打力のありそうな4番・ソンは、4回のピンチで相手ベンチがタイムを取るなど 警戒もされる力があるにも関わらず、なんと代打を出してしまい無得点。 9回の代打攻勢も実らず3-0で終了した。福井出身のうちの後輩(武生東高-東京農工大、30歳のM) を連れてきた方がまだ打てるんじゃないか、と冗談半分に思ったりする。

平成21年5月6日 福井県営球場
1 2 3 4 5 6 7 8 9
富山サンダーバーズ 1 0 0 0 2 0 0 0 0 3
福井ミラクルエレファンツ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

レベルを計る意味でわかりやすい例もあった。ホームページをプリントアウトした選手名簿を見ていると、 福井の5番・原田が大東文化大出身の22歳という。22歳だと大学を出たばかりか。そうすると昨年は在籍 していたかもしれない。昨年秋の首都リーグ入れ替え戦で大東文化大を見ているのを 思い出し、持参しているスコアブックにその試合のスコアが記録されているのを思い出した。 2番センターで原田が出ている。まったく印象には残っていないが、この試合自体は 大東文化大がまったく打てないながら相手の打線も弱く、辛勝したものだった。 貧打の印象だった大東文化大で2番だった原田がこのチームで5番とは、福井自体の 打線の弱さも物語る。なるほどと妙に納得してしまった。 あちこちで野球を見ているとこんなことにもぶち当たる。


知っている選手

あまり多くないが知っている選手もいた。福井で1番ライトで出ていた坂元は神奈川の ウィーンベースボールクラブにいたことがある。N女史がイケメンだと騒いでいた選手だ。 この日も1安打1四球1盗塁と、足も見せて役割も果たした感はあったが得点には 結びつかなかった。知っているということでひいき目になっているかもしれないが、 期待は持たせる。富山で5番ファーストで出ていた伊東は神奈川の旭中央クラブ (現横浜中央クラブ)にいたことがある。もっとスマートで1・2番を打っていた印象が あるがここでは5番。四国リーグなども渡り歩き、言われてみると体つきやふてぶてしさも含め、 5番打者っぽくなってきている気もする。この日は審判にも恵まれず無安打。


試合風景(打者は坂元)


采配

先に少し触れているが、福井の選手起用の部分で気になることはあった。福井の監督は 天野浩一。四国大学リーグ初のプロ野球選手として四国学院大から広島に入り、1軍でも投げていた。 何年かプレーして引退後に四国独立リーグでプレーし、今年から福井の監督に就任。 筆者よりも若い、若干29歳だ。コーチに68歳がおり、選手の最年長が28歳なので アンバランスと言えばアンバランスだ。8回裏2死1.3塁の好機で4番に代打を出してしまったのは 残念だが、控えを見てみると、なるほど楽しみなかんじのガタイのいい打者も何人かいる。 それならばもっと打てそうな雰囲気のない、 下位の打者を早く代えてもよかったのではないかとも思う。 筆者は遠くから来てこの1試合しか見られないのでできるだけ多くの選手を見たいと 思っているので、その意見は差し引いて聞いてもらわないといけないが、 もう少し違う方法もなかったか。9回2死から代打で出てきた小西なんて、横浜隼人高校で 高校通算何十発の長距離砲として名前を聞いていた気がする。もう少し見たかったな。 ただし先発投手の加藤を、3点失って劣勢ではあったものの内容が悪いわけではないと、 続投・完投させたのは立派と思う。


サービス

ファンサービスの内容は、四国リーグで見たときとあまり変わらない。5回裏終了時に この日はダンスパフォーマンスがフィールドで行われ、ドナルドが抽選を行って マクドナルドの景品が観客に当たるイベントもある。試合終了時にはMIP(この日の最も 輝いた選手)として慶家が選ばれてインタビュー&マクドナルドプレゼント。 そしてたまたまこの日は、4月の月間MVP(福井の)として藤井投手が選ばれてインタビュー& マクドナルドプレゼント。この日はファールボールもマクドナルドの提供でファンに サービスすることとなっており、あちこちでボールを追いかける子どもの姿、 そして1球ごとに「マクドナルドのご提供でファールボールはお客様にプレゼントいたします」 の放送。


左:ダンスパフォーマンス、右:月間MVP表彰

う〜ん。悪いとは言わないが、ファンのためか現場のためかマクドナルドのためか、 何のためのサービスなのかよくわからなくなってしまった。無関係者の筆者の立場から 言えば、マクドナルド、マクドナルドとうるさすぎる。ただし野球にお金を出してくれる 媒体の存在は貴重であることは理解できる。

直接は関係ないが、この試合のMIPは慶家か? 3番指名打者で4打数1安打。 打線全体で3安打しかできなかったので1安打打った選手は貴重であるが、4・8回の好機で凡退。 これと言って選ぶ打者がいないのはわかるが、先発の加藤でよかったのでは?

試合後、球場出口で個々の選手たちはそれぞれファン数人に囲まれ、サインや写真撮影。 なるほど選手とファンの距離は近い。この光景はよかった。


タクシーで温泉へ

タクシーを呼んで健康の森へ。ここいらから比較的近い温泉として、事前に調べておいたのが ここだった。露天風呂、泡の出る風呂など短めに満喫して福井駅へ。 駅までのバスがあるはずだが18時すぎには終わってしまうらしく、しかたなくタクシー。 再び同じ会社のタクシーを呼ぶと、同じ運転手。トータルでこの運転手にいろいろと 話を聞くことができた。よくしゃべってくれるがわりと適当でもあった。 越前ガニは季節ではないけれど冷凍でよければどこでも食べられるし味はそんなに 変わらない...と聞かされたが夕食に行った店では食べられなかったり。 おいしい海産物が食べたいのでいいお店がないかと聞くとチェーンの「日本海庄や」を 教えてくれたり。有益な情報もあった。おみやげに水ようかんがいいこと。 東尋坊と永平寺が観光地として有名なのはよいが、両者の距離が離れていることを 観光客は知らずにセットで行けるものと勘違いされがちなこと。 野球のことはあまり詳しくないようで、深い話はしなかった。福井にミラクルエレファンツ という独立リーグのチームがあることは認識しているようだった。


福井の味

福井駅近くのビルで帰りの夜行バスのチケットを入手して、割烹料理屋へ。 事前にインターネットでカニが食べられる店として検索してあった店に、タクシー運転手に 言って乗せていってもらった。カウンター一列に、座席がいくつかという、こじんまりとした 小ぎれいな店。先客は一人だけだった。メニューにカニがないが、カニを食べられるか 聞いたら案の定「季節ではないので」と、お断り。残念。それでも刺身盛合せ、 揚げ出しなす、かれい煮つけなどを頼む。その前に先付けとして出てきた三品(焼き魚、揚げ物等)が、 いきなりおいしかった。頼んだ料理と含めて、「豊かな味わい」というかんじ。 やがてもう一人、お客さん。合計3人になったが、店主が別々にうまく旬な話題を 振ってくれたりして過ごしやすい時間だった。 などなど。最初の一人は長野から安価な高速道路を使って一人旅に来ていることが判明。 筆者の次に来た方は地元の方だが沖縄にダイビングに行っていたことが判明。 筆者は関東からわざわざ福井ミラクルエレファンツを見に来た変わり者であることが判明。 店主とBCリーグの話もできた。「エレファンツ」として他のお客さんも含めて話が 通っているようなので、市民権を得ているのだろうと勝手に解釈。ただ、弱いからあまり盛り上がらない というようなことは言っていた。昨年は元阪神・藤田平が監督で盛り上がったが、 1年で監督を退任してしまったこと、エースがプロ入りして抜けてしまったこと、 今年の監督はまだまだ若いこと、などでなかなか勝てないというようなことを言っていた。 勝てないと言ってもあとで調べたことによると、この日の敗戦で4勝6敗1分なので、 ボロボロなわけでもない。まあいずれにしても、そこそこの関心は市民に届いているのだろう。 なかなか勝てないという事実は伝わっているわけだから。

やがてもう一人おじさんが来て筆者の隣に。東京の会社に勤務するビジネスマンだが 翌日に、お客さんである福井の会社のところに行くとのことで前泊で来ていた。 福井には何度も来ているが、この店がおいしいから夕食に来たという。自分としても「当たった」 かんじでうれしかった。このおじさんとはわりと意気投合した。

ビール党の筆者であるがせっかくなので地元のお酒を、と思って頼むことに。 沖縄帰りの方がお勧めを聞いて「花垣」と店主に言われていたので自分もそれにした。 日本酒はふだん飲まないし、形容の仕方もよくわからないのだが、飲みやすかった。 タコの天ぷらと手羽先のから揚げももらって、花垣おかわり。 福井の味、堪能の夜。


奥がかれい煮付け。手前左手に「花垣」


まとめ

もともと日帰りなので観光は省き、球場巡りや高校コレクションも最小限にとどめて、 野球と食にしぼった旅にしようと思い、予定通り進めることができた。 現実逃避ということで、気持ちを完全にリフレッシュ・リセットできたかどうかは ちょっとわからないが、まずまずの旅だった。

ただ、あわただしかったこともあってお土産を買い忘れた。その地その地で小物を お土産として買って自宅に飾ったりもしているが、それは今回、果たせなかった。 少し残念。


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