表情さまざま...加賀百万石

(山口陽三筆)

平成19年11月21日(水)〜22日(木)、石川県に一人旅に出た。なにかと慌しかった今年1年に 対しての自分なりの慰労というか、そういった意味合いの旅にした。 滞在が1日半だったので満喫とまでは言えないかもしれないが、自分なりには満喫できた。 また、日常を忘れ、野球のことも主題にしないようにと心がけようとはしたが、 結果的にはだいぶ野球を含む旅となった。

11月21日(水) 11月22日(木)
6:00 金沢着
星稜高校
7:00 起床
金沢→輪島
(北鉄バス)
朝食
8:00
金沢城公園
9:00
観光案内 兼六園
10:00 ねぶた温泉へ
入浴 遊学館高校
(移動含む)
11:00
移動
12:00 昼食 昼食
13:00 観光・土産 金沢→小松
小松からタクシー
14:00 輪島→金沢
(北鉄バス)
松井ミュージアム
15:00 小松空港へ
16:00
チェックイン
17:00
18:00 夕食
(回転寿司)
19:00
ちょっと一杯
20:00


石川という選択

自分に対する慰労という意味では場所にあまりこだわりはなかった。ただし、 「行ったことのない場所」「温泉がある場所」、そしてできれば日本海も見てみたいと思った。 また、金沢市内の大学院に通ういとこもいて久々に会う機会も作れそうだということもあって 石川県にした。

金沢までは横浜から夜行バスで直行することができるが、そこから輪島に向かうか和倉温泉に向かうかは 少し迷った。温泉と金沢からのアクセスであれば和倉温泉がいいかと思ったが、 和倉温泉から見る海は果たして日本海なのだろうかと疑問に思い、輪島にした。


早朝のランニング

11月20日(火)の夜に横浜駅を出た夜行バスは翌21日6時過ぎに金沢駅到着。 初めて降り立った石川県は金沢駅。店などは空いていないがけっこう大きくて立派な駅だ。 最小限の荷物だけを持って残りは駅のロッカーへ。まずは電車で東金沢駅に移動。 最初の目的地・星稜高校を目指した。金沢駅の隣の東金沢駅。こちらに来ると、 何もない田舎の駅、というかんじで、金沢駅とはだいぶ違いがある。同じ金沢市内、 駅にして1駅でも大きな差である。

向かった星稜高校はニューヨークヤンキース・松井秀喜の母校。年齢が同じということ以外に 何も接点はないのだが、なんとなく、同じ時期に高校野球をやっていたということで、 こちらが勝手に誇りに思っている選手である。その松井が育った星稜高校を一目見たいとは思っていた。 ただし、あとの輪島への移動の予定があって、時間があまりなかった。

徒歩15分と読んでいた星稜高校、ちょっとオーバーはしたが学校には着いた。 高校・中学・幼稚園・大学、少し離れて大学のグラウンドや寮や記念館などもある。 地域一帯が星稜地域というかんじである。ところが高校の野球部のグラウンドが見つからない。 星稜のホームページでの地図をプリントアウトして持っていたが、わかりにくいというか、 結果的に自分が道を一本まちがえたりして、見つけるのに時間がかかった。 何度かあきらめかけたりもしたが、ここまで来て松井の母校を見ないのもしのびない。 ようやく見つけて写真を1〜2枚撮ったが時間がない。東金沢駅まで走った。 しかしふだんの運動不足がたたってか、継続がきかない。走って歩いて、走って...。 東金沢駅から金沢駅に戻る電車を逃す。何もない駅にたまたま1台だけ止まっていた タクシーに頼み、金沢駅へ。金沢駅、もしくはそこを出て輪島に向かう高速バスに 途中で乗れないかと頼んだ。道中、金沢駅は難しいが県庁前ならなんとかなりそうとのこと。 よぶんなお金(タクシー代)はかかったが、辛うじて目当てのバスに乗れた。 汗だくの自分。人目につきにくいバス後部で下着を着替えてしまった。 ありがとうタクシー運転手さん、ごめんなさいバス乗客さん。


星稜高校野球部グラウンド

閑散とした東金沢駅 でも建物は新しそう
星稜高校校舎 専用バスも


さみしげな日本海

金沢から輪島に向かう高速バスは、日本海沿いも走る。初めて見る日本海は、 大きく壮大なかんじもするものの、曇天だったこともあってどこかさみしげな海という 印象を感じた。


日本海と俺

バスは2時間くらいかかる。だいぶ輪島に近づいたところで、ルートインの看板が。 こんなところにも進出しているのか、ルートイン。確かに、ルートインが山梨の甲府のみならず 櫛形にまであったときには、櫛形での野球の試合のときに本当に助かり、その「かゆいところに手が届く」 ぶりには感心したものだが、なるほど、輪島に進出か。櫛形に出していることを 考えればその方向性もわからなくない。

9時半ごろ、ようやく輪島に到着。「輪島駅」とうたっているらしいが、電車ではなく、 バスの発着があるところ。ただし「停留所」というには大きく、店も何件かあるし、 観光センターもある。この観光センターでレンタサイクルを借り、 カニのおいしい店も教えてもらう。人も少なく忙しくなさそうな観光センターには 女性が一人窓口にいた。輪島行きに備えて電話で1度、電子メールで1度、事前に問合せを 行っていたが、思い返せばいずれもこの女性が応対したのではないかとも思う。


輪島駅

自転車で一路、ねぶた温泉へ。日本海も横目に見ながらのぜいたくなサイクリング...。 だったはずが雨が降り出した。多少の雨でも突っ走ったが、強くなり雨宿り。 そんなことを繰り返しながら、30分くらい走っただろうか、ようやくねぶた温泉についた。 温泉自体が目的でもあったが、昨夜から風呂に入っていないので、単純に「風呂として」 入りたい気持ちでもあった。立ち寄りのねぶた温泉。露天風呂もある。そんなに熱くなく、いい気分。 不意に職場に思いをはせてみる。週の半ばの水曜日、職場の仲間たちは、やれ "i-なんとか"、"SP-なんとか"と言いながら仕事に追われているのだろう。 それを考えればこんなところでのんびりしていられる自分が、妙に幸せに感じた。

ねぶた温泉を出ると雨がやんでいる。よかったよかった、と走り始めたらまた雨が 降り始める。日本海をあちこちの角度から見られれば、とがんばってより奥に(曽々木海岸向きに) 走ってみようと思っていたが、断念した。雨宿りの後、戻ることにした。 戻る途中で道端の地図を見ると、町野高校がこのあたりにあることを知った。 横浜ベイスターズにドラフト1位指名された谷口邦幸の母校である。こんなところ、 と言ったら失礼だが、こんなところからプロ野球選手が出てもいたのか。

輪島駅付近に戻り、観光センターで教えてもらっていた店で昼食。 入ると客は誰もおらず。ただしちょうどカニがゆであがる時間だったという。 地元で取れたカニ1パイ、ゆでたて、6000円で出すと言う。6000円が高いのか安いのか、 昼食としてはまちがいなく高いが、よそではこの値段では食べられないと言う。 水色のラベルがついているのは本物だという。 また、なによりここまで来てカニを食べない選択もない。いただくことにした。 1パイを一人で、なので食べ応えはまちがいなくある。味もよかった。おいしかった。 よくわからないが、6000円でもいいだろう、という気にはなった。


カニ(6000円)

店を出ると雨も小降りで、もう少し日本海を見ていこうかと思うとまた雨が振り出す。 どうも自分が外に出ると雨が降り出すようで、相性が悪い。観光センターに自転車を返し、 土産物屋で土産を数点買ってバスの時間。金沢に戻った。

バスの中からの景色
幸せの夫婦椀 輪島駅にて
紅葉
さみしげな日本海
日本海と虹 ちょっとだけ晴れ間

初めて見た日本海は、天気との相性悪く、あまり堪能できなかった。静かに、でも確実に 打ち寄せる波。どこかさみしげな海。でも晴れ間が出たときに虹とともにいい光景も見ることができた。 快晴のもとでもう1度見てみたい。


金沢の食

金沢駅に戻った。「あじわい館」「おみやげ館」「くつろぎ館」など、テーマごとにエリアが決められて その中に何店舗も入っている。駅ビルとも連動し、駅全体がちょっとしたテーマパークの ような造り(買い物専用のテーマパーク、"ショッピングタウン" らしい)。 あらためて大きな駅であると気づく。駅前には立派な門構え(?)もあり、また、 やたらホテルが多い。多くて、自分がチェックインするホテルがなかなか見つからなかった。 「ドーミーイン金沢」。インターネットで予約するとチェックイン時に、ウコンの力か ミネラルウォーターかをサービスしてくれると言う。知らなかったが、ミネラルウォーターにした。 さすが観光業界も競争が激しいのか、こまごましたサービスがあったりする。

金沢駅-1 門構え
金沢駅-2 いいね金沢、噴水

夕食には寿司。金沢に来たので海の幸を、とは思っていたが、いとこの情報で金沢は 回転寿司でも十分レベルが高いと聞いており、おすすめの店を教えてもらっていた。 「金沢まいもん寿司 駅西本店」。あとあと、横浜にも店があることを知ったのはショックだったが...。 ただしこれが駅から行きづらい。結局タクシー。 着いてみるとほぼ満員。アクセスが悪くてもにぎわっている。一人だったのでたまたま すぐに座れた。軽く寿司を食べるか、くらいのかんじで行ったが、あれもこれもと 食べているうちに皿も積みあがり、お腹もいっぱいになってきたが逆に食べないと 損したような気持ちも出てきてけっこう無理をしてしまった。満腹。タクシーを呼んでもらって金沢駅へ。 タクシーの運転手と話をしてみる。どこの回転寿司もあまり変わらないと思うが あの店はにぎわっているとか、これだけ回転寿司が取り上げられると普通の寿司屋が お手上げで大変だろうとか、どちらかというと否定的な意見をうかがえた。 せっかくの機会なので野球の独立リーグ・石川ミリオンスターズのことを聞いてみたが、 運転手さんは興味は薄いが息子や孫がけっこう熱狂的とのこと。運転手さんも、 優勝したことやドラフト会議で指名されてプロ入りする選手がいることなどは知っていた。 なるほど、最低限の浸透はしているのね。

金沢駅に戻って、腹はいっぱいだが少し飲み直し。軽く地元の日本酒(萬歳楽)を飲んだ。 ガイドブックを持っていたら、ガイドブック持参だと割引になるとか。 知らなかった。でもここでの時間は特に印象なし。収穫もなし、かな。


兼六園...?

「ドーミーイン金沢」では最上階での温泉風呂も楽しんだ。全体的にきれいなかんじ。 泡が出るのとか、足を伸ばして寝ながら浸かれるのとかも。露天風呂もあって、またも堪能。 思うに露天風呂は、風呂の熱さと室外の寒さとが妙にマッチして、体感温度的にちょうどよくて 気持ちがいいのだろうな、と今さらながらに感じた。視力があれば夜空がどう、とかも あるのかもしれないが、筆者は目が悪いのでそちらの感覚はない。

1泊して朝食のバイキングを終えてチェックアウト。まず金沢城公園へ。 向かう途中の市内にはライオンの彫刻も。街中にライオンがいるのはパリっぽいな。 金沢城公園では、城っぽいもの(五十間長屋)を見られて、そこそこ印象には残った。 もともと城には少し興味があるので。途中の案内板で、公園内にかつて金沢大学が あったということも知った。これは意外だった。こんなところに大学があったのか。 大学があるときも城などはそのままあったらしい。

続いて兼六園に向かった。とりたてて興味があるわけではないが名所でもあるので 足を運んでみることにはしていた。 ところがまたも雨が降ったりやんだり、のあいにくの天気。確かに景色がきれいな かんじもしたが、あまり印象に残らなかった。

市内の彫刻-1 子ども
市内の彫刻-2 一家
市内の彫刻-3 ライオン
五十間長屋-1
五十間長屋-2 俺入り
正門
兼六園-1
兼六園-2 池と木
兼六園-3 噴水


金沢の事情

土産物屋に寄って記念に安い土産を買い、市街へ。次に目指したのは遊学館高校だった。 野球を主題としない中でもここはこだわりがあった。野球部創部から日が浅いうちに 甲子園でも活躍した代表的な存在として済美高校と遊学館高校があり、いったいどういう事情、 どういう環境でそういうことが起こるのか興味はあった。済美高校には足を運んでいたので、 遊学館高校もぜひ見たいと思っていた。

遊学館高校自体は兼六園からも歩いて行ける場所にある。住宅地の中に狭そうに建っていた。 およそ立派なグラウンドがあるような学校ではないがそれは織り込み済みである。 野球部こそ新しいが学校自体は100年からの歴史がある学校である。むろん、野球部用の グラウンドは別の場所にある。その程度の知識は事前に持っていた。訪れてみると 裏手門みたいなところには「金城高等学校」のプレートが。かつてはそういう名前だったのだろう。

校舎の方はそこそこに、タクシーを拾って遊学館高校の野球部グラウンドへ。 けっこう距離があったのでいろいろな話ができたのだが、ここでの運転手さんとの会話は 大変貴重なものになった。元から市内中心地に校舎がある遊学館高校が、強い野球部を 作る上で都市部から離れた場所にグラウンドを作ることは容易に想像できる話である。 済美高校も同様である。ところが古くより野球強豪高として知られる金沢高校も ある時期に都市部から離れた場所にグラウンドを移したり、けっこう金沢市内でも そういう動きが増えているらしい。都市部では土地がない。これは関東にも通じる。 また、金沢城公園内にかつてある学部のキャンパスがあった金沢大学にしても、 少し都市部から離れたところに移転して、広い敷地に全学部を集めたとのことである。 交通アクセスが悪くなれば不便ではないかとも思うが、それはそれでそちらの方面にアクセスする バス網が充実するなどのことにもつながったようだ。運転手さんは、数年後の新幹線開通を 見越して金沢駅が発展し、特にホテルなどが乱立している状況だということも教えてくれた。 ただしその一方で、市内中心部から郊外への地元民の緩やかな流れがあるようにも 聞こえてくる。

まったく別の興味深い話も聞かされた。野球の新興勢力である遊学館高校と、 それまで2強を張っていた金沢高校と星稜高校。これら3校の、野球とは関係のない 学力のレベルはどういったものなのか、漠然とした興味があった。運転手さんによれば 金沢高校にしても星稜高校にしても、古くは偏差値が低い学校だったらしいのだが 今やそんなこともなく進学校のようなかんじになってきたという。同じようなことは 遊学館高校にも起きていて、学力が上がってきていると言う。特に遊学館高校は 女子高から共学に変わった経緯があり、筆者は「共学に変わると一時的に学力が下がる」 という意見を聞いたことがあったので、この運転手さんの話は意外だった。 それとともに、野球が強くなって甲子園に出て名前が売れていくことが、学校の本分である 学力の部分にもいい影響を及ぼしているのかもしれないとも思え、これは興味深い 現象だと思った。


感謝とトラブル

地元の興味ある話題をたっぷり聞かされた後、ようやく遊学館高校の野球部グラウンドに到着。 サッカー部グラウンドと併設。これまた済美高校と同じだ。野球部のグラウンド自体は、 普通に一通りの設備がそろっていて、十分だと感じた。バックネット、ベンチ、照明、本部席、ちょっとした観客席、 部室ぽい建物。特徴的なのはグラウンドの脇に石碑があること。どうやら甲子園に出場するたびに、 そのときの部員名を彫った石碑を植えることができるらしい。すでに4個くらいあった。 これも励みになるだろう。横浜高校が今までの分の石碑も作るとかならばともかく、 遊学館高校のように今からであれば、すぐに石碑がグラウンドの周りを埋め尽くすことにもならないだろう。 多くても1年で2個なので。

遊学館高校校舎
遊学館高校裏門 「金城高等学校」の札も
遊学館高校グラウンド-1 創部記念の碑
現阪神・小嶋投手の名も
遊学館高校グラウンド-2 甲子園出場の石碑入り
遊学館高校グラウンド-3 全体

筆者は "訪れた甲子園出場校リスト" を作成した際に 「必ずしもグラウンドがいいから甲子園に出てきているわけでもない」といった形で まとめてはいるものの、ここにきて宇治山田商業高校・星稜高校(ちら見しかしていないが)・ 遊学館高校などを見てくると、なるほど、強豪だとほぼはずれなく、グラウンドがいい。 ちょっと見方が変わってきたかも。

雨がけっこう強く降っていたこともあって傘をさしながらの撮影であったが、 欲張ってベンチ裏からグラウンドを撮ろうと、周囲のドブをまたいで近づこうかと 思ったところで足を滑らせてドブに落ちてしまった。ショック...。 帰りのタクシーは、往路であれだけよくしゃべったのに比べて、ほぼ無言だった。


松井の小松、小松の松井

正午前に金沢駅に到着してあわてて靴を購入。ドブに落ちた靴を履き替えた。 いろいろな店が入っている大きなショッピングタウンで助かった。 駅構内の「加賀屋」でいとこと昼食。ちょうどこの日にいとこの両親(叔父・叔母)も 金沢に来ており、あわせて久々の再会となった。1時間ほどの昼食をごいっしょして、 慌しくサヨナラ。今度は小松に向かった。

小松駅でタクシーを拾って松井秀喜ミュージアムへ。途中、末広公園野球場という 野球場があることを知っていたので、そこにも寄ってもらうことに。なんだかんだ、 完全に野球のための旅になっていた。ここでのタクシー運転手にもまた恵まれた。 小松のことをいろいろ教えてもらえたが、人口も減少気味な中で、松井の存在というのは とても大きいのだな、ということは端々に感じた。松井秀喜ミュージアムに寄ったあとに またタクシーを拾えるかと聞いたら、「あなたが見学している間、私が待っていてあげる。 1時間でも2時間でも待っている。メーターを止めてもいいし、1度清算してもいい。 止めた方が安いから止めておこうか?」と親切な対応。それだけ忙しくないということ だろうとも思えてしまうが、こういう人間味はうれしい。この運転手さんは身上話も してくれてとにかくおもしろい。筆者が横浜から来たと言えば、末の娘が今度横浜に 嫁ぐとかで妙に話が合ったり。自分の結婚は早くて娘たちも結婚が早かったが末の娘だけは 遅いとか。自分は結婚後も若いころはもてて女房を困らせたとか。香箱ガニに雄のものと雌のものが あるらしいが雌のものの方が小ぶりでもおいしいらしく、「なんでも(カニも人間も)雌はうまいということですな」と。


松井と俺(ミュージアム前で)

松井秀喜ミュージアムの前で運転手さんに写真も撮ってもらい、中へ。いやあ、これはこれで なかなかよかった。順路に従うと、入口でビデオ上映。続いて子どものときからの写真、 プロ入り後の年度ごとのバットの展示、プロでの数々のタイトルの記念品、 高校時代の集合写真や甲子園出場記念品、ホームラン写真とコメントの一覧(全ホームラン分ではない)、 などといったかんじである。特にプロでのタイトルの記念品の数の多さに驚いた。 日本のプロ野球で10年プレー。各年の打撃タイトルといっても、首位打者・本塁打・打点等で、 毎年いくつもタイトルを獲っているわけでもないのでそんなにたくさんあると思わなかったが、 これに記者選出のMVP・ベストナイン・ゴールデングラブ、あるいはシーズン途中でも 月間MVP、特別表彰的なオールスターや日本シリーズの表彰、JCB MEP賞に代表される企業からの表彰...。 これに野球界からでなくてもプロ野球で活躍することによって表彰される県民栄誉賞、町民栄誉賞 なども加えるとすごい数になる。こんなに表彰されると、 どれが何の記念品だったかわからなくなるのではないかと心配してしまう (実際には名目が書いてあるのでわからなくはならないが)。


実物大(?)の人形

館内では松井のメッセージが展示されたり、ラジオで語った放送が繰り返し放送されたりしている。 星稜高校、読売巨人軍、ニューヨークヤンキース、と自分の周りはどんどん変わってきているけれど 野球をやっている自分の気持ちは根上(ねあがり)のグラウンドでボールを追いかけていた少年期と 何も変わっていないというメッセージが印象的だった。そして「夢」ということを とても大事に考えていて、子どもたちにもそれを持ち続けてほしいと言う。 例えば松坂大輔は、夢という言葉はあまり好きではなくて使わないと公言しており、 どちらが好ましいというものではないが、対照的ではある。

まぎれもなく、来たのはよかった。なんというか、松井という存在の大きさをあらためて感じた。 これだけの記念品を並べられる立派なミュージアムを建てることができるという、 ハード面での大きさは言うまでもなく、人間的な大きさという、ソフト面での大きさも感じたように思う。 同い年でもずいぶん違うものだ、と嘆くよりは、同い年にこれだけの存在がいるのだと 誇りに思うようにしよう、と思った。

ゆっくりまわって、館外に出てみると運転手さんが待っていてくれる。 隣に松井の生家があるからその前でも写真を撮ってあげようと言う。 本当に隣だった。周囲は同じような色(オレンジ色)の屋根の建物が乱立。松井の父が新興宗教を やっているのでその関連の建物でしょう、と説明してくれた。生家にミュージアムに駐車場に一連の建物... なかなかの土地である。ここは羽振りがよい。


松井家と俺

松井秀喜ミュージアムをあとにして小松空港へ。次の目的地へと向かった。


気まぐれな天候によるところは大きいが、いろいろな表情を見た気分になった 石川一人旅だった。温泉も気分よく、海の幸はおいしく、当初の目的は果たせた。

晴れた日本海を一瞬程度しか見られなかったのは残念だったが、なんというか、 いろいろな表情を見られた気分ではいる。輪島での海に小松での山と空。 金沢での街中、兼六園や彫刻やショッピングタウン駅など、様々な風景。 また、目にした光景以外に、金沢の表情も興味深いものではあった。 栄える金沢駅周辺は確かににぎやかである。ただし無理な背伸びを感じないでもない。 例えば飲み屋などについては金沢駅周辺にもあるが、ガイドブックなどによるとどうやら、 にぎわっているのは近江町市場の方らしい。こちらは金沢駅からバスで5〜7分程度らしいが、 歩くには厳しい。例えば県庁は金沢駅から見て近江町市場の逆側で「まいもん寿司」 の近くのようだが、これもまた歩くには厳しい。先に少し触れたように 「市内中心部から郊外への地元民の緩やかな流れがある」と感じざるをえないのだが、 そもそもそうではなくて、金沢駅自体が住民の生活の中心であるというステータスを得ていない のではないかという乱暴な仮説を立てられる気もしてくる。実は隣の東金沢駅と そんなに変わらない規模だったものを、新幹線開通の夢を持って無理に飛躍させて今の形になってきたのではないか、 それでも住民の生活が急にそちらにフィットするわけではなくてギャップが出てきている のではないか、そんなかんじもする。

小松では結局松井秀喜ミュージアムしか見ていないが、聞いた話や調べた知識から、 けっこういろいろな表情を持っていそうな土地であるとは感じた。有名な「勧進帳」の 安宅関があるのがこの土地とのこと。弁慶が義経を何度もたたいたという話、 それ自体は知っていたがそれが小松だとは知らなかった。一方で小松製作所の発祥の地であり、 空港も自衛隊基地もある。自然の面で海も山もあり、また、歴史の貴重なワンカットを演出する一方で 近代的な施設も持つ。自衛隊基地があるおかげで飛行機の騒音がうるさくて次々に 地元住民が離れていったという場所も、タクシーで通り過ぎたときに教えてくれた。 人口が減っているのだろうと思わせる一方で、使う人も少ないだろうにやけに立派な 施設(小松ドームなど)ができたりする。末広公園野球場も改修中だった。 表情は様々...と思わせるがタクシーで通り過ぎた限りではさみしげな街ではあった。

必要以上に利用する結果となったタクシー。その運転手さんとの雑談も貴重なものになった。 いろいろと地元の話を聞かせてもらったし、親切にもしてもらった。 話が楽しい人もいた。総じて満足だった。ただし、この県で感じた事柄が、 タクシー運転手からの情報に偏りすぎたかもしれないきらいはある。

なんだかんだ野球中心になってしまうのは自分らしいが、非日常の空間・時間の中で ふだん触れないことに触れられたのはよかった。だいぶ、人生を洗濯できた気分でもある。


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